音楽の危険な匂い(FREE について)

 
 危険な匂いのする音楽というのがなくなった。
 不吉な匂いというのか … 。

 もともとロックミュージックというのは、そういうものであると思うのだが、そういう “暗さ” が、今の時代には毛嫌いされるのか、ビジュアル的にキケンだったり、フキツだったりするバンドは、相変わらずいっぱいいるけれど、「音」として危険な匂い漂わせるバンドというのを、最近は知らない。

 しかし、60年代末期から70年代初期にかけて登場したロックグループは、たいていこの危険な匂いというものを、どこかで持っていたものである。

 それは別に、犯罪を予感させる何か … という意味ではない。
 たとえて言えば、
 「オレは、これから塾からも家庭教師からも逃げ出して、家出して、ロックアーチストになってやる !!」
 とかいった感じの、何かを捨てるときのエネルギーの匂いをいう。

 社会の決まり事などを蹴破るぐらい、自分の内側から強力に膨れ上がってくる何か。
 自分の中の “怪物性” を目覚めさせた何か。

 そういうような「音」を体現したロックバンドが、1970年代初頭に突然あふれだした。

 その多くは、せいぜい2~3年という一瞬の生命力しか持たなかったけれど、今から思うと、その短い季節のなかで、ロックの世界は「ジュラ紀」か「白亜紀」を迎えたのだと思う。
 で、私にとって、ロックのジュラ紀を生きた最大の “恐竜” は、フリー(FREE)というバンドなのである。

フリー001
▲ フリー
 
 60年代末に結成されたイギリスのバンドだが、そのブルースを基盤としたずしりと重いサウンドは、まさにティラノザウルスが、眼前の茂みをゆっくり横切るのを眺めるような緊張感を持っていた。
 ティラノザウルスが通り過ぎるのを息を潜めて待つときの怖さと、しかし、その偉大な生物の全容を、この目でしっかり確かめたいという好奇心。
 そんな両極端の感情が同時にわき起こる不思議なサウンドを創り出したのが、フリーだった。

 バンドが結成されたのは、1967年。
 そのときのメンバーの平均年齢が19歳だったと聞くから驚く。
 何が驚きかというと、最初から「若さ」のない音だったからだ。
 逆にいえば、むしろ若いがゆえの直感で、この世を覆う暗さの根源が何であるかを見抜いてしまったような、「氷の心」を持つ若者のグループだったのだ。

 編成は、ギター、ドラムス、ベースのみ。
 それにヴォーカルが加わる。
 基本的には、ブルースのエッセンスを色濃く持ったバンドであり、そういった意味では、ジョン・メイオール、アレクシス・コーナー、さらにはヤードバーズ、クリーム、ツェッペリンへと連なる系譜に属するバンドといえる。
 
 しかし、フリーのような「暗さ」を体現したバンドは、他にはいない。
 ヴォーカルを務めるポール・ロジャースの声質もあるのだろうが、フリーのサウンドは、常に低く、地を這うような重苦しさを特徴とする。
 
 そのような重厚感は、主にアンディー・フレイザーの弾くベースによってもたらされている。

アンディー・フレイザー
▲ アンディー・フレイザー

 腹の底を揺るがすような重低音を奏でていたかと思うと、突如、翼を広げて宙を舞う生き物のようにヴィブラートするベース。
 単純な根音をキープするときですら、獲物を威嚇するコブラのようにカマ首を揺らしているベース。

 特に、71年の発表された『フリーライブ』は、マイクの位置のせいか、PA技術のせいか知らないけれど、アンディー・フレイザーのベースがびんびんに唸っているサマがまるでスピーカーの前に陣取ったかのように伝わってくる。

フリー『ライブ』
▲ フリー 『ライブ』

 このアルバムに収録されている曲は全曲好きだけど、どの曲もベースの入り方がいい。
 ポール・コゾフのギターとユニゾンを奏でる場合も、アンディーのベースは、そこに “揺らぎ” を伴って絡みつく。
 サイモン・カークの正確なリズムをキープするドラムと絡まる場合も、アンディーのベースの “揺らぎ” が生きたものの生命感を吹き込む。

 楽曲的な用語でいえば、その  “揺らぎ”  というのは「シンコペーション」のことをいう。
 シンコペーションとは、規則正しいビートを刻んでいるリズムをいわば意図的に狂わせて、リズムの  “跳ね”  とかグルーブ感を強調する手法のことだが、アンディーのシンコペーションは、均等な時間区分をただ狂わせるだけでなく、そこに鋭い 「裂け目」 を入れるような跳ね方をする。

 そこには、「時間」がいつも均等に区分できると信じ込んでいる近代人の盲点を突くようなグルーブ感がある。
 そもそも、ロックが当時の大人たちから嫌われたのは、ロックのリズムが「近代の時間」の中では “シンコペーションそのもの” であったからだ。

 なかでもフリーのアンディー・フレイザーは、最も暗くて危険なシンコペーションを弾き出したミュージシャンの一人かもしれない。
 その暗い匂いのため、フリーは、70年代のUKロックグループの中では、クリームやツェッペリンのような人気を集めなかった。
 『オールライト・ナウ』や『ファイアー&ウォーター』のようなヒット曲が、当時のロックチャートをにぎわしたこともあったが、それ以外の曲を聴いていたのは、本当に一部のファンということになるのだろう。
 
▼ 私のお気に入りの1曲 『ビー・マイ・フレンド』
 ポール・ロジャースの哀切感あふれるヴォーカルと、星を頼りに夜の荒野を旅していくような、アンディー・フレイザーのベースが聞きどころ

▼ もう1曲おまけ 『オールライト・ナウ』

 
 

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音楽の危険な匂い(FREE について) への4件のコメント

  1. ヒゲGODZI 松原 より:

    町田さんもかなり、マニアックですね。
    私も、FREEは思い出深いです。
    FENでしかその当時聴く事が出来なかったのです。
    ちょうど68年が中二でWORLD BOYとか云うラジオを買ってもらい必死にROCKを聴いて、オープンリールの簡単なテープレコーダーに取り込んでいた頃に、Janis Joplinとかと一緒に録音しました。
    でも、当時FEN英語が聞き取れなかったので、最初は曲名がFREEだとばっかり思ってました。
    懐かしかったです、ありがとうございました。

  2. 凪子 より:

    町田さん、こんにちは。
    メンバーの平均年齢がそんなに若かったとは!
    若者らしくないサウンドですな。
    特にポール・ロジャース。
    蒸し暑い夏の日の部屋の中で聴くフリーが好きです。

  3. 町田 より:

    >ヒゲGODZI松原さん、ようこそ。
    ほぼ同年代ですね。私もまた、ラジオで気に入った音源を収録するときに使っていたのはオープンリールのテープレコーダーでした。
    あの時代、海外から来る新しい音を拾うのは、FENが一番でしたね。
    ただ、松原さんと同じように、しゃべっていることがよく分からずに、曲名とアーチスト名をいつも間違えていました。
    「イッツァ・ビューティフル・デイ」 というグループの 「ホワイトバード」 という曲が好きで、レコードを買いに行きましたが、買うまでグループ名と曲名をあべこべに覚えていたことに気づきませんでした。
    今でも、Jポップのバンドの場合は、バンド名と曲名の区別がつかない場合が多いです。

  4. 町田 より:

    >凪子さん、ようこそ。
    >「蒸し暑い夏の部屋で聞くフリー」 という感じ、よく分かります。
    汗臭いような音で、よけい暑くなりそうなんですが、意外とクールなんですよね、あの音。
    芯の底に冷えた感じを持つ熱いロックバンド。
    フリーには、そんなものを感じています。
     

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