カツマー現象

 
 今日の話は、ある週刊誌で読んだ記事内容をそっくりそのまま紹介するだけにとどめる。
 香山リカさんという精神科医の女性が、『しがみつかない生き方』 という本を出版されて、それが周囲にどのように受けとめられたかという話だ。
 
 この本は、 「頑張ってもうまくいかない」 と悲鳴をあげる人たちに、 「しがみつかない生き方」 を諭し、 「普通の幸せ」 を手に入れるための10のルールを提案したものだという。
 
しがみつかない01
 
 この本が話題になったのは、その10番目のルールとして 「 <勝間和代> を目指さない」 という章を設けたところにあるらしい。
 
 勝間さんは 「経済評論家」 という肩書きでデビューした後、その専門分野の知見を生かした数々の自己啓発書的な本を執筆。この2年間で20冊以上の本 (累計部数270万部!) を世に出し、社会現象を巻き起こした。
 その勝間さんの愛読者は 「カツマー」 と呼ばれ、彼女のセミナーに参加した女性ファンたちは、勝間さんが演壇についたとたんに 「キャー!」 という歓声まで上げるらしい。
 
断る力表紙01
 
 その週刊誌のレポートによると、勝間さんの存在がこれほどカリスマ性を帯びてきた理由は、彼女が、競争社会・格差社会の中で生き抜くための 「向上心の喚起」 を呼びかけるだけでなく、自分の私生活や仕事の挫折もさらりと語り、自転車通勤をするなど、読者の親近感を誘うライフスタイルを提示したからだという。
 
 アラフォーあたりの働く女性にとって、勝間和代は、カリスマでありながらも 「自分たちと等身大」 であり、 「自分も頑張れば、そこに近づける」 と思わせるような存在なのだ。
 
 そこに問題があるのではないか、と香山リカさんはいう。
 精神科医の香山さんによると、 「頑張ってもうまくいかない」 とか 「頑張れない自分をダメだ思う」 と訴えてくる30代~40代の女性患者の大半は、勝間さんの愛読者なのだという。
 
 香山さんはいう。
 「いくら読者が親近感を持っても、勝間さんは、才能にも運にも恵まれた、成功した一握りの人間。普通の人が置かれた立場と、勝間さんが活躍できる立場では、すでに土俵そのものが違っている」
 
 しかし、向上心の強い女性たちは、勝間和代さんのような存在になることを必死に目指して、成功を呼ぶ技法を学び、勝間さんのように、仕事だけでなく、結婚、出産、育児、教育など人生のすべてにおいて勝ち組になろうとする。
 
 だが、そのような努力がすべて報われることは、現実社会においてはなかなかない。
 なにしろ、誰かが 「負け組」 にならなければ、 「勝ち組」 なども生まれないのだから。
 そして格差社会の広がる日本では、 「勝ち組」 として残れる人はどんどん少なくなってきている。
 
 しかし、自己啓発書に救いを求める人たちは、そうは思わない。
 その教えにすがればすがるほど、サクセスも近づいてくるような錯覚に陥る。
 そして、いつしか疲れはてた自分に気づき、愕然とする。
 
 そのとき多くの人は、 「勝間さんの言うことが実行できない私はダメな人間だ」 という自己否定に陥り、それが高じてノイローゼになり、あるいはウツ病になり、精神科医の門を叩く。
 
 結局、香山さんは、
 「このような、 (自己啓発的な) 考え方に日本人が振り回されるようになってきたのは、米国型の自由競争と自己責任の社会が日本にも浸透してきたからだ」
 と分析する。
 
 米国型のビジネス社会では、厳しい競争を勝ち抜くためには、 「自分が特別な存在である」 ということを絶えず主張しなければならず、また 「特別な存在」 になるための努力を継続しなければならない。
 このような 「自分が!」 「自分が!」 という価値観が、いつしか 「当たり前の幸せ」 に満足できない人間をつくってしまう。
 
 だから香山さんは、 「そんなに頑張らなくてもいい。今のままでもいいのよ」 と言葉をかけ続けるのだが、そうなると、 「頑張らないことを目標に頑張ってしまう」 人たちがたくさん出てくる。
 「リラックスするためにヨガを頑張って始めます」 とか、
 「頑張らないことを、いま何割ぐらい達成しました」
 みたいな反応があるらしい。
 読んでいて笑ってしまった。
 
 さて、このような香山さんの指摘した “勝間和代 (カツマー) 現象” をどう受けとめたらいいのか。
 その週刊誌には、それに対するさまざまな意見も掲載されていた。
 
 香山さんと同じく精神科医の和田秀樹氏は、カツマーという存在そのものに言及して、こういう。
 「カツマーとなるような30代~40代の人々は、受験の勉強法をハウツーものとして消化した最初の世代。勝間さんが受けた理由は、賢い女の生き方をハウツーにして示したから」 だという。
 
 同じく精神科医の斎藤環さんは、カツマー現象の分析に対して次のような視点を披露する。
 「今の時代の人々は、生き方というものを長期的なスパンで考えることよりも、短期間のうちに目標に到達することを求めるようになった。
 勝間さんは、思想とか価値観といった (難しいこと) を押しつけずに、細かいノウハウを示すことに徹しているので、汎用性が高い」
 
 逆にいうと、 「思想」 とか 「価値観」 が抜けた分だけ、目標の達成が 「オール・オア・ナッシング」 になってしまい、目標を達成できなかったときの喪失感も大きい…ということを、たぶん斎藤さんは言いたいのだろう。
 
 この斎藤環さんの面白いところは、今回の香山リカさんの本に対しても、 「カツマーからの脱却を訴えながら、カツマーをサポートしている」 と喝破したところだ。
 
 「勝間さんのように頑張るのに疲れたときに、香山さんの本を読んでいる人は多いと思うが、元気になると、また勝間さんの本に戻っていくのではないか。
 そういう意味では、香山さんの本もまた、皮肉にも自己啓発の役を完璧に果たしている」
 
 この意見は面白いと思った。
 では、当の勝間和代さん自身は、この香山リカさんの本をどう評価しているか。
 
 「私も、香山さんの本は発売後すぐに読みました。でも香山さんがいう勝間和代は “アイコン” に過ぎす、私本人とイコールではない。
 人の幸せには正解がない。結局は自分で考えていくもの。
 私の本でも 『会社に人生を預けるな』 などを読んでいただけたら、香山さんと私が言っていることが近いことが分かるはずです」
 
 なるほど。
 カリスマたちは (良い意味で) なかなかしたたかだ。 
 このように、カツマー現象を全方位的に追求したこの記事は、なかなか読みごたえがあった。
 決して、ある一つの “見方” を強要しないところがいい。
 いろいろな視点をバランスよく提示して、最終的な判断は読者に任せる。
 これが “ジャーナリズム” というものだよな。
 
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カツマー現象 への6件のコメント

  1. うしちゃん より:

    新聞に香山さんの『しがみつかない生き方』の
    ルールが載ってましたね。
    ○恋愛にすべてを捧げない
    ○自慢・自己PRをしない
    等など。
    そして最後に
    ○〈勝間和代〉を目指さない
    思わずププって笑っちゃいました。
    最近の「○○力」シリーズでお腹いっぱいになってる
    所にまさかのこの見出し。
    頑張り疲れてしまった人はマンマと買わされるんでしょうね~
    勝間さん香山さんも商売上手ですよね!

  2. TJ より:

    勝間和代さんの1日を分割してムダを省くなんて考えを30~40代の女性が同じことをしよとするのが間違いだと思います。まずは今の自分が何をしなければならないかを自分が分かっていればダメでしょう!!汎用性がある話ものめり込まない程度にしないとですね。。

  3. 町田 より:

    >うしちゃん様、ようこそ。
    そうですねぇ。勝間さんと香山さん。これ、ひょっとして共同戦線だったのでしょうかね。
    香山さんの本の方向性も (未読ですけど) やはり自己啓発セミナー的なハウツー本の匂いがありそうですね。
    この不況下の日本において、今の日本人はみな頑張っていると思います。しかし、頑張ることで生産性を上げるという今の社会上の仕組みが、もう時代の趨勢と合わなくなってきているとしたら、みんなの徒労は大きな喪失にしかなりません。
    私たちの考え方が試されている時代かもしれませんね。
     

  4. 町田 より:

    >TJさん、ようこそ。
    おっしゃるとおりですね。勝間さんの編み出した方法論が、いかに汎用性が高かろうが、結局それを忠実に実行したとしても、勝間さん以上の成果は出せないということですよね。
    もしかしたら、他のやり方を追求することによって勝間さん以上の仕事ができていたかもしれない。
    TJさんのおっしゃるように、結局は、各々が 「自分が何をしなければならないのか」 という根本のところを、自分で考えるしかないように思います。
     

  5. 電気通信主任技術者 より:

    どうしたら社会の階段を昇っていけるのか
    試行錯誤している若者に対して
    勝間氏は明快な方法を示してくれていて
    ますね。

  6. 町田 より:

    >電気通信主任技術者さん、ようこそ。
    私自身は、この記事を書いた頃、かなり勝間さんに対して斜に構えたスタンスを取っておりました。
    しかし、最近テレビの彼女の発言や新聞などのちょっとしたコラムを読むにつれ、やはり勝間さんの “力” というのを見直すような気持ちになっています。
    その理由は、おっしゃるとおり、勝間さんの 「明快さ」 にあります。
    基本的な考え方に対して、全面的に賛同しているわけではないのですが、勝間さんのモノの見方や、考え方を披露するときのロジック。
    それはさすがに、鮮やかで、明快で、時に意表をつく視点が指し示され、“カツマー” といわれる人たちが輩出する理由もよく分かるのです。
    やはり脚光を浴びるべくして浴びている人であるように感じます。
    コメント、ありがとうございました。
     

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