夏なんです

 

   
 夏、好きなの。
 夏のけだるさが。
 
 エアコンの普及によって、日本の夏から追い出されたものが、「けだるさ」だと思う。
 いやぁ、エアコンもなくて、汗が吹き出すような、うだるような炎天下に身体をさらしてさ、いったい何が「けだるさだよ」 …って思う人も多いだろうな。
 
 でも、昔の日本にはあったんだよ。
 埃の舞い上がる道に水を撒いて、軒先に風鈴を吊るして、野原をかすめて来る風を縁側に導きこむときの、けだるい心地よさが。
 
 今「けだるさ」という言葉は、「かったるさ」と同じような使い方になって、疲労感とか徒労感を表現するときに使われることが多いけれど、昔は、ちょっと違ったニュアンスがあった (と個人的には思い込んでいる) 。
 フランス語でいうところの、「アンニュイ」ね。
 これはもう死語なんだろうけれど、いい言葉だったよね。
 
モニカ・ヴィッティ01
 
 昔のミケランジェロ・アントニオーニの映画なんかに出てくるモニカ・ヴィッティの唇のさ、ちょっと半開きになった感じの、目もちょっとうつろでさ、何を考えているのか分らないような表情が、まさに「アンニュイ」だったな。
  
 こういう、奥の方に、ちょっとシンと冷えた「さびしさ」が沈んでいる「けだるさ」ってのが、エアコンが普及する前の日本の夏にはあったよな。
 昨日の夜、友達とカラオケハウスに行って、はっぴいえんどの『夏なんです』を歌ったときに、そう思った。

 田舎の白いあぜ道で、埃っぽい風が立ち止まる。
 ぎんぎんぎらぎらの太陽。
 鎮守の森は、深緑。
 舞い降りてきた静けさが、古い茶屋の店先に、誰かさんとぶらさがる。
 日傘ぐるぐる。僕は退屈。
 
 
 すごいイメージ喚起力をもった歌詞なんだよね、松本隆。
 
 トロトロとしたサウンドもさ、いかにも、夏のあぜ道に埃を立てる風を感じさせてさ。
 夏ってさ、植物でも昆虫でも、ぎらぎらと生命感をみなぎらせる季節じゃない?
 
 そのむせ返るような生命感の高揚と、それと同時に、その生命が衰弱していくときの予兆が秘められていて、曲として、これ以上の夏の歌はないんではないか? というすごい歌なんだよね、『夏なんです』 。
 
 はっぴいえんどの『風街ろまん』は、もう擦り切れるくらい聞いた愛聴盤だった。
 その中で、いちばん聴いたのが、『夏なんです』だったな。
 

 

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夏なんです への4件のコメント

  1. 凪子 より:

    町田さん、お久しぶりでございます。一日ぶり?昨晩はありがとうございました。楽しいひとときでした。 
    ほんと夏でしたね。飲んで歌って、町田さんのブルース、ビートルズのお話、友達のKちゃんも喜んでいました。ありがとうございましたとのメールが送られてきました。 
    近い将来、町田さんの老後?ぜひバンドでギターを弾いていただくこと、私、Kちゃん共々、諦めてはいませんぞい。
    町田さんのブルース魂についていくべく稽古、精進いたします。  
    また遊んでください、ありがとうございました。

  2. ムーンライト より:

    あら、町田さん。
    老後と言わず、ギターをお弾きくださいな。
    是非お聞かせいただきたいですわ。^^
     
    ところで、本日(8月22日)は向田邦子さんが亡くなった日だそうで。
    古新聞の片付けをしていたら、朝日新聞の5月の記事が目に留りました。
    久世光彦さんの『触れもせで』について以前お話しましたが、
    それに関する記事だったのです。
    エッセー集『触れもせで』と『夢あたたかき』にはいずれも「向田邦子との二十年」という副題がついていた。
    絶版になっていた両者が今回、合本で復刊された。
    その合本の題は「向田邦子との二十年」。
    そういう内容でした。
    タイトル。サブタイトル。
    合本だからしょうがないけれど、『触れもせで』というタイトルが消えてしまったのは寂しい気がします。
    向田邦子さんが亡くなって28年。
    52歳だったそうで・・・。
    夏ねぇ。
    今年の年末の航空券の先行予約は出足が早いので少々焦り。
    大木さんのディナーショーの案内はまだなのですが、協会に12月25日開催と確認し、航空券を先行予約しました。
    私の気分は、もうクリスマス!
    クリスマスには、向田さんと同じ年齢になっている私。
    今まで何をしてきたかを考えると忸怩たるものがありますが。
    まあ、これからこれから・・・

  3. 町田 より:

    >凪子さん、ようこそ。
    こちらこそ、お付き合いありがとうございました。歌って、しゃべってのひととき、楽しかったですね。音楽の世界の話、またもや、いろいろ勉強させていただきました。
    特に、「ロックとは何か?」 というテーマは、あまり自分でも考えたことがなかったので、なかなか刺激的でした。また、ブルース(&リズム・アンド・ブルース)と、ヒップホップの間には連続性があるのか、それとも切断があるのか。そこらへんも、気になるところです。
    ギターの方は、老後になったら少しずつ…というところで、しばらくは凪さんたちが出す 「音」 の良きリスナーになりたいと思っています。また、いろいろ教えてください。
     

  4. 町田 より:

    >ムーンライトさん、ようこそ。
    向田那子さんが亡くなられて、28年。いつのまにか、それほどの年月が経っていたのですね。そういえば『時間ですよ』とか『寺内貫太郎一家』といった、久世さんと組んでドラマ界で一世を風靡した脚本は、70年代のものでした。52歳没とは、現代では 「早世」 といっていいくらいの若死にですね。
    久世さんの『向田邦子との二十年』というタイトルは、確かに書籍の内容をストレートに表現するものではあるのでしょうけれど、ムーンライトさんがおっしゃるように、『触れもせで』 という書名に宿る哀切感のようなものはだいぶ後退していますね。
    久世さんが亡くなられて、3年ぐらい経つのでしょうか。
    向田さんといい、久世さんといい、テレビと文学の掛け橋となるような方々が世を去るというのは淋しいことですね。
     

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