今どき女房が強いワケ

 
 オフィス街の昼下がり。
 歯医者に行ったついでに、お好み焼き屋でランチの 「麦とろ定食」 を食べていたときだ。
 隣のテーブルでは、昼間から鉄板でヤキソバを焼く主婦4人が盛り上がっていた。
 
 「うちの旦那が来年65だからさ。いよいよ年金が入ってくるのよ」
 「ああ、うちももう直ね」

 …というような会話を交わしているところをみると、奥様方の年齢もいちおう60代をクリアしているのだろう。
 何の集まりなのか分からないけれど、とにかく、皆やたら元気だ。
 よく飲み (…といってもウーロン茶だけど) 、よく食べ、よくしゃべる。 
 盗み聞きしようと思ったわけではないが、彼女たちのおおらかなしゃべりが、自然に耳に入ってくるので、ついつい聞いてしまった。
 
 「年金が入るようになるとさ、男ってとたんにシビアになるから、今のうちから自由になるお金をしっかり確保しておかないとダメよ」
 「へそくりね」
 「それって常識じゃない」
 「大丈夫よ。うちは昔から生涯小遣いは4万円。それ以上はどんなことがあっても融通できませんからって、しっかり言い聞かせてあるから」
 
 う~む。
 奥様が家計をしっかり管理しているという昨今の家庭事情が、ここでも貫かれている感じだ。
 旦那さんの小遣いが 「4万円」 というところがリアルだ。
 
 各種の調査によっても、だいたい今時のサラリーマン家庭の旦那の小遣いは4万円から4万2~3千円 (2009年当時) の間らしい (うちはもっと安いけど … ) 。


 
 どこかの週刊誌で、 「アラフィ男の哀しい小遣い」 とかいう特集をやっていたけど、アラフィ…つまりアラウンドフィフティ (45歳~54歳) くらいの男性が奥様から得られる小遣いは、 「ランチを500円以内で済ます」 ことを前提として計算されているらしく、そこで取材された男性の中には、 「週に2回は駅構内の立ち食いソバで済ませていますね。安くて量があるし…」 というような、リアリティ溢れるレポートも掲載されていた。
 
 その週刊誌の記事によると、今のアラフィ男の一番の “夢” というのは、
 「一人の部屋がほしい」
 「気兼ねなくタバコを吸いたい」
 とかいったものらしい。

 う~む。
 なんとも “夢” のない夢だ。

 「サイフのヒモを奥さんが握るようになった」 といわれて久しい。
 カネを握るということは、権力を握るということと同義だから、今の 「家庭」 の実質的な支配者は 「奥様」 ということになる。
 
 いったいいつ頃から、どうして、そうなったのだろうか。
 「それは日本が豊かになったからだ」
 という人がいる。
 「戦後、とにかく今日食べていくのが精いっぱい」
 という時代、夫婦のどちらがサイフのヒモを握るかなどという問題は、どうでもよかった。
 お金が入れば、それは家庭を維持する資金として夫婦・親子に平等に分配された。
 
 ところが、1964年の東京オリンピックあたりを境に、日本がだんだん豊かになっていく。
 日本の豊かさは、洗濯機や掃除機といった家電の発達とシンクロしたから、専業主婦が携わる家事が少しずつ楽になるとともに、主婦に、家計を維持するためのノウハウを考案する時間が生まれる。

 80年代になると、政府が内需拡大の音頭を取るようになる。
 新製品や贅沢品を買うことが、国を繁栄させることにつながるという風潮が生まれ、消費することが美徳であるというモラルが誕生するようになる。
 
 こういう個人消費を促進する時代風潮のなかで、主婦たちは、 「何をどのように買えば、賢い買い物になるのか」 という “消費のプロフェッショナル” になるスキルを身につけていく。
 
 そのような動きに、旦那さんたちは完全に乗り遅れた。
 旦那たちは、会社の利潤追求やコスト削減には骨身を削って知恵を絞るワザを覚えさせられたが、家庭に戻ってまで経営のプロになろうとは思わなかった。
 
 その頃になると、すでにどの家庭でも 「経営のプロ」 である主婦層が育っていたからである。
 男にとっても、家の煩わしいマネッジメントを奥さんが肩代わりしてくれることは楽だった。その方が毎晩気楽に飲み歩けるし、休日はゴルフに通えた。
 
 それでいて、男たちは小遣いに不自由することはなかった。
 なぜかというと、バブルまでの日本では会社の社交費がさんざん使えたからだ。不思議なことに、日本のサラリーマンのお父さんたちは、自分の小遣いで遊んだり、飲み食いする必要がない時代を持っていたのだ。
 (余談だけど、今までの日本の男たちの趣味がみな画一的なのは、接待費で遊べる分野でしか遊ばなかったからだ)
 
 で、お父さんたちが、経営権も含め家庭のリーダーシップを奥様から取り戻そうと思っても、それはもう無理だろう。
 個々の家庭では、それが可能になる家もあるだろうけれど、それは例外的な家庭になるのではなかろうか。
 なんといったって、奥様方の方には “ネットワーク” という強力な武器がある。
 長年に渡って築いてきた地域コミュニティ、子供の同窓コミュニティ、趣味の会といった生きた情報交換が活発に交わされるネットワークがある。
 
 「うちの旦那がこんな文句を言ってきた」
 と一人の奥様が、そのネットワーク内で相談を持ちかければ、
 「あ、そういうときはこういう対応がいい」
 と、即座にあちこちからノウハウが伝授される。
 
 ノウハウの伝授に留まらず、共感や支援のエールがふんだんに贈られる。
 現に、お好み焼き屋でヤキソバを食べていた主婦たちの会話は、こんな風に進んでいった。
 
 「やっぱさぁ、食事を作ってあげたときにはさぁ、男なら “美味しい” の一言ぐらい言うのが義務よね」
 「そうそう。黙ったまま平然と口に運んでいる姿を見ると、腹が立つわよね」
 「でね、何か言ったら? と言ったらね、何も言わないことこそ “美味しい” と思っている証拠で、不味いと思ったらそう言うよ、だって」
 「サイテー!」
 
 そうなのである。
 この女性たちの 「共感の嵐」 こそ、彼女たちの活力を生んでいるのである。
 こういう主婦層のネットワークに対し、旦那の方は、会社のネットワークを失うと、もう何も残っていないというのが現状ではなかろろうか。 
 
 さぁ、旦那さんたち、どうすればいいのだろう。
 長年フェミニズムの論客としてならしてきた社会学者の上野千鶴子さんは、こういう。
 「奥様が旦那を大事にしてくれないといって、男性が寂しがるのは自業自得。女に気を使ってもらうのが当たり前と思っていた反動。
 寂しいと思うなら、女にサービスするしかない。少なくとも一緒に食事をして楽しいと思われる相手にならないと」
 
 ここに旦那族が生き延びていくヒントがありそうだ。
 「つまりチャーミングな旦那になれ」
 ということだ。
 
 経済的に自立した女性にとって、結婚相手は 「生活資金の供給者」 である必要がなくなった。
 つまり、 「カネならあるぞ、どぅだぁ!」 という武器が、男に使えなくなったわけだ。
 
 では、今時の主婦層は、旦那に何を求めるようになったのか。
 「エンターティメント性である」
 という人がいる。
 
 確かに、芸能界では、お笑い系の男性にやたら結婚話が多い。
 「いっしょにいると楽しそう、面白そう」
 こいつが、今の女性の結婚観の根幹を占めているとか。
 
 けど、それは男性にとっては、意外としんどい条件かもしんない。
 自分のキャラクターとはまったく合わない 「お笑い芸」 なんかを無理して身につけている男性って、ハタから見ていても痛いものな。
  
 

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今どき女房が強いワケ への2件のコメント

  1. ミペット1号@久しぶり より:

     ふと思うことがあるんですが、男の人って、たまに何の根拠もない無駄遣いってするじゃないですか。
     例えば、何の変哲もないアルミの固まりに、云万円とか払ったり・・
     何も知らない女の人からすると、アルミホイルもアルミホイールも同じに見えるわけで・・
     しかも、金塊なら地金の価値もあるけど、地金としての価値もない物に・・・ってのもあるし。
     それに、中古になれば値崩れするって解ってるものに、大金払う男の気持ちも、女性からすると理解に苦しむことかも知れないし・・・。
     そう考えると、やっぱり女性の経済観念って冷静ですね

  2. 町田 より:

    >ミペット1号@さん、ようこそ。
    本当にお久しぶりです。文面から察するにお元気な様子。なによりです。
    男が大金を払うとき、本当に自分でもバカらしくなるものにお金をはたいていることがよくありますね。
    経済観念において女性の方が冷静でシビアであるというのは、おっしゃるとおりだと思います。
    でも、男の無意味な無駄づかいにも、それがその人の満足と納得のいくものであるならば、他人や家族に迷惑がかからない限りいいわけで、私はそういう男の無駄遣いに、かえって微笑ましさを感じます。
    「幸せ」というのは、そういう無駄遣いできる余裕のことを指すのかな…などと思うこともあります。
     

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