キャンピングカーも小説になって本物

 
 ある乗り物文化が、どれだけ人々の生活の中に定着化しているかどうかを測るバロメーターがひとつある。
 それは、その乗り物が 「小説」 の中に登場したかどうか? 
 …である。
 
 自動車はいうに及ばず、船、飛行機、鉄道などには、それぞれ傑作小説が残っている。
 自動車なら、たとえば五木寛之さんには自動車小説集があるし、古今東西のハードボイルド小説には、クルマそのもののうんちくに数ページを費やすなんていうのがザラにある。
 船を舞台にした小説ともなれば 『蟹工船』 などが最近は脚光を浴びたけれど、古典をあげれば 『白鯨』 、 『宝島』 などの名作が目白押し。
 
 航空機小説となると、古典として有名なサン・テクジュペリの 『夜間飛行』 をはじめとして、これも第二次世界大戦ものから、現代のジェット戦闘機をテーマにしたものまで数えればきりがない。
 鉄道が鍵を握る有名作となれば、アガサ・クリスティの 『オリエント急行殺人事件』 を筆頭に、これまた枚挙にいとまがない。
 
 では、キャンピングカーがテーマとなるような小説はあるのか?
 …となると、ないんだなぁ、これが…。
 (少なくとも、自分の得ている情報の範囲にはない)
 かろうじてジョン・スタインベックの 『チャーリーとの旅』 があるが、あれは小説というより、作者のアメリカ分析を試みるためのエッセイという趣 (おもむき) に近い。
 
 キャンピングカーが絡んだ小説というのがない理由は、自動車、鉄道、船舶などに比べると普及度が低く、それを扱ってもマーケット的な広がりを期待できない…というのが一つ。
 また、キャンピングカーの基礎知識を持っている作家が少ないというのもあるだろう。
 さらには、キャンピングカーは家族単位のレジャーに使う 「平和な乗り物」 というイメージが強いから、 “手に汗握るアクション小説” などの小道具として使いにくいという理由もありそうだ。
 TVや雑誌で採り上げられるキャンピングカー特集を見ていると、“家族や夫婦で和気あいあい” という切り口のものばかり。
 
 もちろん、そこにキャンピングカーの意義があるのだけれど、家族や夫婦で使う乗り物であるならば、対立や葛藤まで含めて、ホームドラマ以上に面白く扱える人間模様が生まれているはずなのだ。
 ドラマの脚本家たちは、 「家庭」 の中にドラマを見つけることは得意でも、キャンピングカーの中のドラマには思いを馳せることがないらしい。
 いずれにせよ、本格的なキャンピングカー小説というのが登場しないのは、乗り物の中での普及度が低いという一言に尽きそうだ。
 
 しかし、TVや雑誌にキャンピングカーが採り上げられる頻度も高くなり、それをきっかけに関心を持つ人々も増加している今日このごろ。そろそろ、その手の小説が出てきても良さそうに思える。
 
宇筒原キャンプ場3
 
 ふと真剣になって考えると、キャンピングカーの中というのはドラマの宝庫なのだ。
 まずホームドラマの舞台としても、キャンピングカーは格好の場となる。
 例えば、長年連れ添った夫婦が、旦那さんの定年を機にキャンピングカーの長旅を始めたとしよう。
 たぶん 「運転席+1部屋」 というような限られた室内で、夫婦がずっと隣り合わせに移動しながら生活するというのは、はじめての経験となるはずだ。
 
 そういう旅を始めてみると、
 「俺たちには共通の会話ってものないんだな…」
 などと気づく夫婦もいるかもしれないし、
 「あ、あなたそんな素敵な考え方を持っていたの!」
 と、お互いに相手の中に未知なるものを発見して気持ちがリフレッシュされるかもしれない。
 もうそういう設定だけで、十分にドラマが発生するじゃないか。
 もしスリリングな展開に持っていきたいときは、奥さんが 「食事の用意でも…」 と思って食器棚を開けると、そこに見たこともない女性用のマグカップが…
 とかね。
 
 キャンピングカーを使った男の一人旅なんていうテーマもいい。
 主人公は、定年退職した独り暮らしの中年。
 失われゆく “日本の原風景” などをスケッチすることを趣味かなんかにして、全国を回っている。
 ところが彼は現職時代は、凄腕のデカだったのだ。
 気に入った町や村があると、しばらく長逗留するのだが、いつもそこで事件に遭遇。
 地元の警官でも解決できない難事件を難なく解決してしまう。
 
 犯人の行動を監視する張り込みの舞台にキャンピングカーを使っていいし、捜査を助けるための小道具が何でも収納庫に収まっているなんていう設定もあり。
 口の堅い関係者から秘密の話を聞き出すときに、キャンピングカーの室内をうまく使って、相手の気持ちを解きほぐす…なんてのはどうだ?
 
 「最近ペットボトルのお茶しか飲んだことがないですか? たまにはお湯を沸かしてお茶を飲みましょうよ。いい煎茶を仕入れてあるんです。
 なあに、この車載のコンロに火をつければ、すぐにお湯が湧きますから。
 ところで、殺された重吉さんには、確か一人息子がいましたよねぇ?」
 …とかさ。
 
 “キャンピングカー刑事” なんて荒唐無稽だけど、まぁ、タクシーの運転手をしている元刑事が主役のサスペンスドラマなんてのもあるくらいだからさ。
 誰か書かないかなぁ…。
 キャンピングカー小説。
 もし、そういう小説がうっかり直木賞でも取ったりしたら、どんな広告よりも効果のある宣伝になること間違いなしなんけどさ。 
 
 

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キャンピングカーも小説になって本物 への6件のコメント

  1. MARK より:

    初めまして、町田さんの語り口が好きでずっとROMしておりました
    MARKといいます。キャンピングカー小説というわけではないですが、稲見一良氏の『ダックコール』中の『密猟志願」という作品にはハイエース(たぶん)のバンコンが重要な脇役として登場します。まだ、お読みでなければ、是非お読み下さい。

  2. TOMY より:

    お久しぶりです、町田さん
    お元気になったようで、なによりです。
    キャンピングカー小説を誰かが書かないかなぁー、て他人を頼らないで自分で書いてしまいましょうよ。
    これだけの知識と文才があれば立派な小説が書けますよ。
    何年掛かってもいいじゃないですか。
    桐野夏生さんに負けないくらいの物を書きましょう。
    期待しております。
    <PS>
    メルアドが変わりました。

  3. 町田 より:

    >MARKさん、初めまして。
    「ROMする」 という言葉を知っているようで、あまりよく知らなかったので、ネットで調べてみました。意味がよく分かりました。
    これからも、続けてROMしてください。よろしくお願いします。
    また稲見一良さんの貴重な書籍情報ありがとうございました。
    さっそく『ダックコール』、『密猟志願』をキーワードに検索してみましたが、かなり面白そうな小説ですね。未読でしたが、自分の好みの小説というふうに感じました。
    貴重な情報をお寄せいただき、感謝しております。
     

  4. 町田 より:

    >TOMYさん、ようこそ。
    この間、身体のケアに関するアドバイスをはじめ、いろいろとお世話になりました。
    本当にありがとうございます。
    「自分で書いてしまいましょうよ」というご提案、本当にうれしく思います。
    だけど、やっぱり小説を書くって、難しいんですよ。
    その理由を、いつかこのブログでも書いてみようかと思っていますが、お言葉だけでも、ありがたく頂戴いたします。
    TOMYさんも、お体を大切に。
     

  5. ムーンライト より:

    「キャンピングカーを使った男の一人旅」。
    死が近いことを悟った人間が思い出の地や友人を訪ねるという設定は結構あるように思います。
    昨年放映された「風のガーデン」は癌に侵された医師がキャンピングカーで故郷を訪ねる話でした。
    長い間足を踏み入れることができなかった故郷。
    彼は遠くから父親や娘・息子を見つめ、次第に愛を取り戻していく。
    診療室を兼ねたキャンピングカーがあったからこそ、癌末期の激痛に襲われる彼が出かけることができたのでしょう。
    大木トオルさんは、若い頃、黒人のブルースバンドを率いて全米をバスでまわっていました。
    その様子が自伝「伝説のイエロー・ブルース」に書いてあります。
    舞台を終え、予約してあったホテルに着くと、「満室だ」と断られる。
    メンバーの肌の色が「イエロー」と「ブラック」だからです。
    押し問答の末、疲れた体で「イエロー」と「ブラック」を泊めてくれるホテルを探さなきゃならない。
    大木さんにもキャンピングカーがあったなら、ホテル探しの苦労はしなくてすんだでしょう。
    でも、そんな差別を身をもって体験したからこそ、ブルースを歌うことができたとも言えると思います。
    「キャンピングカー小説」。
    私も書いてみたいですが、なかなか難しいですね。
    死を覚悟した謎の女・ムーンライトがキャンピングカーで全国の友人を「ありがとう」と訪ねる話。
    まだ傷が少々痛いですが、ピンピンしていまして、書く気がしなくなってしまいました。(笑)
    やはり、町田さんがお書きになるしかありません。「主人公は、定年退職した独り暮らしの中年」。
    いいじゃありませんか!期待しています。
    アマゾンに書いた「スーパーガイド」へのカスタマーレビュー。
    大木さんの話をうまく盛り込むことができればムーンライト名で投稿したのですが、文章を練る時間がなくて・・・。
    町田さんが体調不良のようでしたし、私自身も体調不良でしたので、投稿を急いだのです。(笑)
    あの「レビュー」に(参考になった)という最初の一票を入れてくださったのは町田さんじゃありませんか?
    先ほどレビューを書き直そうかと確認したら二票に増えていました。
    嬉しかったです。^^

  6. 町田 より:

    >ムーンライトさん、ようこそ。
    小説というのは、本当に書くのが難しいですね。世の中の職業作家と言われる人たちは、ほんとうによくやっていると思います。
    書くことだけは誰にもできるけれど、本当に読んだ人の胸を打つような作品というものは、誰にでも書けるわけではない。
    この当たり前のことが、自分で書いてみてはじめて分かるというようなところもあります。
    でも、小説として形を残さなくても、ムーンライトさんが紹介した大木トオルさんのバスツァーの話は、それだけで “小説” 以上の何かを伝えてくれました。
    何かに必死に取り組んでいるとき、人は気づかぬうちに小説以上の生き方をしているのかもしれません。
    でも、定年退職した中年男の、少しくたびれたキャンピングカー小説ってのを、そのうち書いてもいいのかな…などと思うこともあります。
    味がある小説になるためには、何かを一度捨ててみないとならないかもしれませんね。
    何を捨てると、何が見えてくるのか。その発見がこれからのテーマのような気もします。
    アマゾンのレビューに1票入れたのは私ではありません。
    きっと、ムーンライトさんのレビューに何かを感じられた方の投票でしょう。
    でも、そうやっていつもお気遣いいただくことだけでも感謝しております。

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