お値打ちマンガ古書

 
 部屋が手狭になったこともあって、手持ちの本を少し売ることにした。
 どんな本に、いくらぐらいの値がつくのか。
 そんなことが分からなかったので、美術書、写真集、マンガ全集、古典文学書などから、それぞれサンプルを 1冊ずつぐらい引き抜いて、自転車のカゴに載せて、古本屋さんに出向いた。
 
 店主に査定してもらったら、元値で7,000円もした美術本が、たった500円の値しかつかなかったことにはびっくり。
 元値の多寡よりも、流通に多く出回っている本なのか、それとも希少価値の本なのかによって、買取価格が決まるという。
 宮沢リエの写真集は、値もつかず、持って帰るしかなかった。
 (もっともヌード写真集の 『サンタフェ』 は売る気がなかったから持ち出さなかった)


 
 諸星大二郎の 『西遊妖猿伝』 なども8巻まで揃えて持っていったけれど、買値は1冊100円。
 結局、14~15冊売って、2,100円なり。
 ちょっと高めの新刊書を 1冊買ってしまえば終わりという金額である。
 
 しかし、収穫もあった。
 家に “お宝” もあることが判明したからだ。
 昭和30年代のマンガ本である。
 それを数冊サンプルとして持っていったら、そのうちの 1冊が、元値150円のところ、書店さんの提示額はなんと3,500円。
 店頭価格では、いったいどのくらいの値段で売り出されるのやら。
 
 その他のものも、だいたい1,500円以上の価値があるという。
 元値の10倍以上だ。
 持っていった本は、どれも、当時銀座にあった 「トモブック」 という会社から発行されたもので、今ではマニアのコレクターアイテムになっているのだそうだ。 
 それを聞いてしまうと、急に売るのが惜しくなって、結局マンガの古書だけは持って帰ることにした。
 
 考えてみると、それらのマンガは、みな少年時代に自分がマンガを書いていたときのお手本だったものばかり。
 家に持ち帰り、久しぶりにそれらのマンガのページを繰ってみたら、懐かしい気分がこみ上げてきた。
 自分がマンガを描いていた頃、コマの中の構図や人物の動きを、それらのマンガから模写していたことを思い出したからだ。
 
 たとえば、ここに 『アイバンホー』 というマンガがある。
 『アイバンホー』 というのは中世の騎士の名前で、1950年代にロジャー・ムーアが主演する連続テレビドラマとしても人気を博した物語だ。
 
 それをマンガ化したものが本書なのだが、なんと主人公の顔がミッキー・マウス。
 中学生の頃、顔はミッキーで、身体はポパイという主人公を設定して 『ポパイ・マウス』 というマンガを描いたことある。
 ホーレンソウを食べると、もりもり力が付いて、悪人たちをバッタバッタと倒すネズミの話だった。
 それなどは、このトモブックのミッキーシリーズがヒントになっていた。
 
 で、この 『アイバンホー』 。

  
▲ 『アンバンホー』
 
 版権は一応 「ウォルト・ディズニー・プロダクション」 となっているが、絵を描いているのは日本人マンガ家の藤田茂氏。
 どう考えても、この作品自体、藤田氏の原案によってストーリーから作画からすべて決定しているように思われる。
 アメリカのディズニーは、日本でこういうマンガが描かれていることを、本当に知っていたのだろうか。
 そういういい加減さが、なんともほのぼのとした気分にさせてくれる。

  
▲ こういうコマ割が、当時としてはものすごく新鮮だった
  
 作品の中には、ドナルド・ダックやグーフィーも登場。
 それが、普通の人間たちと混じって大活躍。
 このおおらかさが、いかにも昭和30年代っぽい。 
 それにしても、日本人漫画家の描いたミッキーがなんと表情豊かなことか。
 本場のディズニーものより芸が細かいと思うことがある。

 3,500円という値がついた希少本というのが、この 『ルパン全集 ③ 水晶の栓』 。
 小坂靖博氏の絵によるものだが、タッチがまさに初期の手塚治虫。
 古本屋のご主人がいうには、この手塚流タッチによる非手塚マンガというのが希少価値らしいのだ。

  
▲ 『ルパン全集 ③ 水晶の栓』 
  
▲ 奥付け                 ▲ 登場人物紹介
 
 奥付に記載された発行日は、昭和33年11月30日。
 発行年月日の上には、
 「世界的代表名作ルパンの内容を知らない者ははじです。まず漫画化をごらんください」
 と書き添えられている。
 「…はじです」 と堂々と書かれているところが、とてもこの時代の空気を伝えていて面白い。
 
  
▲ それにしても絵のタッチはもろに手塚治虫
 
 こちらは、当時大ヒットした映画 『ベン・ハー』 をマンガ化したもの。

  
▲ 『ベン・ハー』
 
 表表紙と裏表紙には、チャールストン・へストンが主役を務めたMGM映画の 『ベン・ハー』 を実写化したマンガが描かれている。
 しかし、マンガが始まると、どことなく手塚治虫か横山光輝というタッチ。
 
  
▲ 映画がヒットしたせいもあって、時代考証はわりと忠実
 
 映画 『ベン・ハー』 は、ルー・ウォレスが1880年に書いた小説を元にしたものだが、映画化されたときに、若干ストーリーが書き換えられている。
 マンガは、映画と原作のちょうど折衷的なストーリー設定となっており、映画しか知らない人にはちょっと違和感があるが、その両方を知っている人間からすれば、マンガを描いた小坂靖博氏の工夫がしのばれて、エールを送りたくなる。
 
 昭和30年代の少年マンガの空気を一番よく伝えてくれるのが、この 『マンモス皇帝』 。
 表紙の右下に登場する仮面の人間が、マンモス皇帝であるのだが、別にマンモスの顔をしているわけではなく、名前の由来が、いまいち不明。
 
   
▲ 『マンモス皇帝』
 
 だけど、『怪人二十面相』 的な始まり方といい、途中から 『まぼろし探偵』 風の主人公が登場するところといい、最後は 『ゴジラ』 ばりの怪獣が登場するところといい、もう作者 (藤田茂氏) のサービス精神の旺盛さには脱帽するばかり。
 
 それにしても、『マンモス皇帝』 が、なぜ世界征服を企むようになったのか。
 また、彼の正体は何なのか。
 なぜ、仮面を被っているのか。
 どんな素顔をしているのか。
 そういうことは一切明かされることなく、最後に “悪” はあっけなく滅んでめでたし、めでたし。
  
 
  
▲ コマ割が曲がっているのは、別にスキャニングが失敗したわけではなく、ページそのものの水平が取れていないだけ。この頃のマンガは、版ズレがあっても、読者も、出版元も、作者も、誰も気にしなかった。
 
 今、この手のマンガを見て思うことは、登場人物たちが、なんとまろやかな線を身にまとっていたのか…ということ。
 ここには、どんな激しい闘争や暗闘が起ころうとも、とげとげしい雰囲気も、殺伐とした空気も存在しない。
 悪人たちは、登場してきた時の顔つきで、すぐにそれと分かるし、正義の味方は、どんなアクションをこなしても、決して傷つくことはない。
 あっけらかんとした勧善懲悪が、何の疑問もなく展開する世界。
 
 それから、約50年。
 今はとんでもなく複雑な世界になったものだと、つくづく思う。
 
 

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お値打ちマンガ古書 への10件のコメント

  1. HORI-Bon! より:

    よく読んだ古い本はなつかしいですね。子どもの頃は、小学館の入門百科シリーズを楽しんで読んでました。釣りに連れて行ってもらえない休日は、本を見ながら釣りの仕掛けをいくつも用意していました。でも、このシリーズはもう書店には並んでいないようですね。ちょっと残念な気がします。
    ギターの譜面も同じくですが、今では手に入りにくくなっているものも多いですね。アマゾンで探していたら、何倍もの値がついているのをたまに見かけます。またギターをはじめた頃は、手書き風の譜面だったのですが、今はどれも活字になってしまって味気ないです。

  2. motor-home より:

    町田さん
    よく、アクティブシニアの方から20年~30年前の「アメリカ モーターホームの旅」の特集雑誌を見させていただく機会があります。皆さん、いつかは、、、と、大切に保存されていらっしゃることがその雑誌から良くわかります。
    ただこの手の雑誌は、アマゾン等では売っておらず、なかなか流通していですよね。何とか手に入れたいと思っているのですが、、、おそらく、同じ思いをしている人は多くいらっしゃるかのでは?

  3. TJ より:

    本は捨てられない性格で置き場所に困っています。。それと創刊号と最終号が好きでたまりまくっています。

  4. 町田 より:

    >HORI-Bon! さん、ようこそ。
    やっぱり、昔読んでいた本をふと取り出して眺めていると、当時のことを思い出したり、今との違いに気づいたりして、いろいろ面白いものが見えてきますね。
    ギターの譜面でも、Amazon で高値が付いているものもあるのですか。こだわりを持って集めている人がいるということなんでしょうね。
    手狭になってきたら、まずは 「物を捨てる」 ということが一番有効な方法なのでしょうが、もしかしたら “お宝” をたくさん捨てていたのかもしれません。
    資源を再利用するという時代の流れもあることだし、捨てるか、残すか…。いつも頭を悩ませています。
     

  5. 町田 より:

    >motoro-home さん、ようこそ。
    20~30年前の 「モーターホームの旅」 の雑誌ですかぁ! それはまた貴重な資料ですね。
    その頃って、まだ日本ではキャンピングカーですら十分に認知されていない時代ですよね。たぶん、今よりももっとそういう旅に対する憧れが強かった時代ではないかと思います。
    そういう資料があれば、自分もまた見たいと思っています。今度、心当たりのある人に尋ねてみることにします。
     

  6. 町田 より:

    >TJさん、ようこそ。
    創刊号と最終号って、なんか取っておきたい気持ちってありますよね。
    >「たまりまくって大変」 かもしれませんけれど、それはきっと “お宝” になるような気がします。
    ただ、保存状態が大事らしいのですけれど。
    雑誌などを買うときは、別に 「将来のお宝」 など意識していないもので、うちに残してある古雑誌はみなボロボロです。
     

  7. Dreamin' より:

    僕も以前、本を売ったことがあります。
    ほんと信じられないくらい買取価格が安くて、とても驚きました。
    だいたい、店頭販売価格の10%~40%くらいが相場のようです(もっと低いかも?)。
    しかし、売ったときはいいのですが、何年か経ってから、急に手放した本たちがとても惜しく感じるときがあります。
    特に今回の町田さんのコレクションは、入手困難なものばかりですから、手元に残しておくのが賢明な気がします。
    というより、機会があれば、直に見せていただきたいというのが本音です(笑)
    ただ、問題は置き場所…。
    地下室にでも、でっかい書庫が欲しいものです。
    懐かしい香りが漂う古書には、他には変えがたい魅力があるのは確かです。
    たいせつになさってくださいね。

  8. 町田 より:

    >Dreamin’ さん、ようこそ。
    本の価値というのは、やはり価格で表現されるものではなく、その持ち主にとってどれだけ大事であるかということで判断されるものなのでしょうね。
    愛情を持って接していた本は、やはり久しぶりに開いてみても、どのページからも温かい情感が伝わってきます。
    それって、本の中に幼い頃閉じ込めておいた 「好奇心」 とか 「興奮」 とかが、封印を解かれてよみがえってくるからでしょうね。
    Dreamin’さんに 「コレクション」 だと指摘され、初めて自分の持っているマンガ本の価値というものが分かりました。
    ありがとうございました。大切にします。
     

  9. まりん より:

    「マンモス皇帝」懐かしいですね。私もこの単行本持っていたのですよ。いつしか散逸してしまいましたが…。そしておそらくこの作品のモチーフなどが後にテレビ映画「怪獣マリンコング」へと結実したのだと、勝手に推測しています。

  10. 町田 より:

    >まりんさん、ようこそ。
    びっくりです! よもや、この『マンモス皇帝』を愛読されていた方からコメントをいただけるとは思ってもいませんでした。
    ありがとうございます。
    そういえば、この 『マンモス皇帝』 に出てくる恐竜はビジュアル的には 「マリンコング」 に似ていますね。
    当時の怪獣モノは、今見ると、みなほほ笑ましい表情をしていますが、当時はけっこう恐いものに見えました。
    時代が変ったのですねぇ。

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