日本のアウトドア考察 1(中村達さんの講演より)

日本のアウトドアの考察 1
 
 2009年の1月16日に、日本RV協会(JRVA)さんが開催したフォーラムで、アウトドア・ジャーナリストの中村達(なかむら・とおる)さんの講演を聞くことができた。
 

▲ 中村達 氏

 その講演録のまとめをお手伝いさせてもらった関係上、中村さんとRV協会さんのご承諾を得て、協会内部の事業でありながら、講演内容の一部をこのブログにて公開するご許可をいただいた。
 
 以下、中村さんが行われた講演の抜粋をご紹介する。
 あくまでも「キャンピングカー業界への提言」という形を採ったものだが、広くアウトドア産業やアウトドア文化の興隆に関心を示す方々には得がたいアドバイスに溢れているものと確信する。
 

 
キャンピングカー業界への提案
 
 中村達 (なかむら・とおる) 氏のプロフィール
・ 1949年生まれ 滋賀県湖南市在住
・ 株式会社 ネーチャーインテリジェンス代表取締役
・ アウトドアアナリスト&コンセプター
・ アウトドアジャーナリスト

日本のアウトドアズは今どうなっているのか

 日本の地勢というのは、国土の68%が山(森林)なんですね。フィンランドについで2番目に広い森林面積があるわけです。自然が破壊されたといわれながらも、日本の自然というものはとても豊かです。
 しかし、日本人はこのような自然資源を生かしているかというと、残念ながらそうではない。
 日本には言葉だけ「アウトドア」というものがありますが、そのアウトドアが実はなかなか広がっていかないし、定着しない。
 
 日本のアウトドアマーケットというのは、メーカー出荷額でだいたい1,200億円ぐらいだといわれています。その大半はナベ、カマ、ヤカン、登山靴、ウェアなどが中心となっているのですが、こういうものが売れているといっても、実はライフスタイルとして根づいていないのです。
 
 確かに若者の間にアウトドアウェアは売れています。しかし、彼らはアウトドアには行っていないんですね。あくまでもそれを着て街を歩いているだけです。要するにカジュアルファッションですね。
 今の若者たちの「クルマ離れ」がよく話題になりますが、若者たちの間には「自然離れ」も進行しています。
 たとえば、かつて若者に人気のあった登山。山に向かう若者は大きく減少しています。
 大学の山岳部あるいは、ワンダーフォーゲルといったクラブ活動は停滞していて、まさに「開店休業」状態です。
 かつて登山の名門といわれた大学の山岳部でも、今や新入部員は1人か2人。
 笑い話のようですが、そのトラの子の新人が辞めないように、先輩たちはその新人に軽い荷物を背負わすなど、腫れ物にさわるような扱いをしています。


 
 同じように、15年ほど前は空前のブームを巻き起こしていたスキーも、凋落の一途をたどっています。
 例えば、最盛期のスキー板の流通量は、200数十万台を記録していました。しかし、今年は30万台を切るのではないかといわれています。この14~15年で10分の1近くに落ちているわけです。

 一方で、若者の間にスノーボードが広まって、一時はこれが若者たちの新しいウィンタースポーツになると期待されていたのですが、今はそのスノーボードも減少の一途をたどっています。

 オートキャンプに関しても、「オートキャンプ白書」などを見ると、最も盛んだった’98年には1,306万人のキャンプ人口を誇っていましたが、’07年度はその半分の720万人です。しかも、その中で20代のキャンプ人口は5.2%しかおりません。
 このような状況を見ると、「クルマ」と「自然」をコンセプトとしているキャンピングカーの場合、とてもゆゆしき事態が起こっているといえるのかもしれません。

中高年の登山ブームが消え去る日?

 このような若い世代を中心にアウトドア離れが進行している中で、唯一アウトドア・アクティビィティが活発なのは、中高年の山歩きですね。
 山歩きは、健康のため、仲間つくり、自己啓発、旅などの要素を満足させるのには、格好の行為です。歩くだけなら、だれにでも簡単にできるわけです。

 去年の夏、富士山に登った人たちの数が前年より20%伸びて、24万人の登山客を記録しました。
 これは、メディアが自然遺産として採り上げたという効果が大きかったのですが、なんといっても日本人なら一度は登ってみたいのが富士山です。中高年の嗜好にフィットしたからだろうと思います。これには若い人たちも大勢登っています。
 
 しかし、問題があります。彼らは富士山に登った後、山歩きを継続するのかというと、そうではない。
 一度富士山に登ってしまえば、それで終わりなんですね。富士登山も観光的なアクティビティになっていて、一過性の感が強い。
 結局、「なぜ山に登るのか」 というアウトドア・アクティビィティを支えるフィロソフィー (哲学) が確立されていないのです。だから、メディアに採り上げられた「富士山」には登るけれど、登山一般に興味を持つわけではない。
 もちろん富士山以外の山々にも、中高年の方は登っています。東京の高雄山などは、今やシニア登山のメッカのようになっています。
 
 しかし、「山に登る」あるいは「自然に親しむ」という基本的なフィロソフィーが根づいていないため、ブームが去れば、一気にしぼんでいく可能性があります。
 こうして見てくると、いまアウトドアズを支えているのは、山歩きを楽しむ中高年だけだという非常に寂しい現状が浮き彫りにされてきます。
 
 そうなると、この山歩きをしている中高年たちがリタイヤした後、日本のアウトドア文化やアウトドアマーケットはいったいどうなるのか。このままでは、何も残らないのではないかと心配しています。

 日本RV協会さんの出された『キャンピングカー白書2008』を読ませていただきました…非常によくまとまった白書であるとは思いましたけれど、結局、ここでレポートされている内容も、「中高年」「温泉」「道の駅」という三つのキーワードに集約されるだけで、その後の展望が見えて来ない。
 
 この白書からも、今後「中高年」が抜けたらどうなるだろう…という先行き不透明性感が漂うことは否めません。
 アウトドアライフを楽しむ層が脆弱になってくれば、当然、用品などの開発力、そして購買力も落ちてきます。

 今月の末、アメリカのソルトレイクシティで、全米最大ともいわれるアウトドアショーがあります。
 そこには、アウトドアマーケットに商品を供給する用品メーカーがおよそ850社も出展します。そして世界各国から1万5,000人を超えるバイヤーたちが集まってきます。

 こういう大きなショーにもかかわらず、参加する日本企業は数えるほどしかない。
 これは今の日本には、世界に通用するアウトドアのブランド力を持っているところが少ないということなんですね。
 つまり、世界の人々の好奇心を集めるようなアウトドア文化が創造されていない。発信するものが少ない。自分たちの自己評価も低いし、海外からも評価されるようなものが少ない。それが、日本のアウトドア産業の現状だと思います。

海外でアウトドア活動が活発な理由

 では、世界のアウトドアシーンはどうなっているのでしょうか。まずアメリカです。
 アメリカという国は、今や金融不安を撒き散らした元凶の国として、かなり評判を落としていますが、この国で信用できると思えるものが、私の知っている限り、少なくとも二つあります。
 
 ひとつは、この国のアウトドアズ。
 もうひとつは、国立公園の保護活動です。
 
 特に、アメリカのアウトドアズというのは、非常にストロングです。コンテンツもしっかりしているし、哲学がある。そして、そのようなアウトドア哲学・思想によってアメリカの国立公園はしっかり守られています。
 
アメリカのアウトドア1
 
 アメリカ人というのは、幌馬車の時代から野外生活の伝統をつちかってきましたから、アウトドアズが思想にまで結実し、国家の基本理念のひとつとして確立されています。
 彼らは、人間が自然から学ぶべきことがいっぱいあるということを理解しています。
 だから、例えば両親が子どもを連れて、長期間バックパッキングなどをしている間は、学校に行かなくても親が、学校の代わりに教えることができます。

 つまり、アウトドアズも教育の一環であるということが広く認識されている。だから、彼らは、「学校の授業よりも自然の方が偉大な教師だ」とはっきりと言います。
 
 こういう国ですから、アメリカのアウトドア人口というのは 1億6,000万人に達します。
 そういう厚みを持った層が形成されてこそ、初めて「マーケット」といえるものが成立するわけですね。
 彼らのアウトドアマーケットというのは、アウトドアズを「教育」の中にしっかり位置づけ、国をあげて取り組むという姿勢から生まれてきたといえるでしょう。
 
 もうひとつ、フランスの例を見てみます。
 ご存知のように、フランスという国は非常にバカンスが盛んです。夏などは多くの人がロングバケーションを取って、アウトドアズを楽しみます。
 しかし、これは自然発生的にそうなったわけではないんですね。実は、しっかりした制度がそういうバカンスを支えています。
 
 フランスには国民の余暇活動を支援するための、いわば「指導者」を育成する制度があります。
 この指導者たちを「アニマトゥール」といいます。その多くは17歳から25歳くらいの青年で、およそ100時間くらいのトレーニングを受けてアニマトゥールの資格を取得し、子どもたちにアウトドアの手ほどきをします。フランスでは、このアニマトゥールが毎年4万人くらい誕生するといわれています。
 夏になると、彼らは11週間から1ヶ月ぐらいのサマーキャンプに子どもたちを連れ出し、さまざまなアウトドアズの指導を行っています。
 そして子どもたちがサマーキャンプに行っている間、夫婦水入らずの旅行を楽しみたい親たちは、自分たちだけの長距離旅行に出かける。
 
 このように、フランス人たちのバカンスというものは、実は国家が整えたシステムによって実現されているわけです。
 フランス革命の頃から、政治の世界においてはヨーロッパ随一の先進国であったフランスは、国民の余暇に関しても先見性があったんです。
 要するに、国民の “自由時間” を国家がコントロールして、「余暇」という分野で産業を創出し、雇用を発生させることに早くから成功していました。
 彼らのロングバケーションというのは、このようなしっかりした、社会的基盤の上に形成されているわけです。
 
(次回へ続く)

 ※ 次回は、このような諸外国の動きをにらみながら、日本の政府や行政がどのような対応を開始したか。また、そのような行政側の動きに対して、キャンピングカー業界、アウトドア業界はどういう反応を示せばいいのかということをお届けします。

続き 「日本のアウトドアの考察 2」
 
 

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