不況時代のRV (増田英樹氏インタビュー)

 
 「クルマが売れない」 と言われる時代。
 しかも、“百年に一度” といわれる大不況。
 キャンピングカー (RV) を販売している会社の経営者たちは、どんな気持ちでいるのだろうか。
 
 大手キャンピングカー販売店 「キャンピングカーランド」 の社長を務める増田英樹さん (前 日本RV協会会長・レクビィ会長) とお会いする機会があったので、雑談かたがた、この不況時代をどう見ているのかというお話をうかがってみた。
 

 
キャンピングカーは生き延びられるか
 
【町田】 いま “百年に一度” の大不況といわれ、しかも自動車販売がかつてないほど冷え込んでしまっているわけですね。
 そうなると、「キャンピングカーなんか遊びのクルマだから、さらに売れないだろう」 と予測する人々も出てきそうですが、ずばりどう思われますか?
【増田】 今その話をうちの社員などにすると、みんなしぼんじゃうので、僕はあまりそういう話は、社員の前ではしないんですよ。
 僕が話さなくても時代の厳しさなんてニュースを見ていれば分かるだろうし、社長が朝礼を開いて、「さぁ、厳しい時代を乗り切るためには身を引き締めて…」 なんて演説ぶち始めたら、みんな凍りついちゃうと思うのね。

【町田】 じゃ社員の方々にはどういう指示を?
【増田】 この前、全員会議をやったんですけど、そのときどういう話をしたかというとね、
 「僕は25年商売をやってきて、バブルも経験したし、バブルの崩壊も経験した。残念ながらバブルには乗れずに儲からなかったが、代わりにバブルが弾けても崩れもしなかった。
 ここ数年、世の中は再び好景気に沸いた。それが第二のバブルだとしたら、それが崩れても、この業界は心配ないんだ」 と。
 もちろん、これだけ景気が悪化したら、どんな業界でも苦しいことには変わりなくて、われわれの販売も相当苦戦を強いられることは間違いないけれど、それでもキャンピングカーは、ピンチをチャンスに変える可能性を持っていると思うんですよ。

【町田】 具体的には、どういうことですか?
【増田】 キャンピングカーって、「物」 じゃないんですよ。「物」 として扱ってしまうと、「じゃ、要らないから手放そう」 となってしまう。
 しかし、キャンピングカーは 「物」 ではなくて、「価値」 なのね。価値である限り、人間は手放すことができない。
 つまり、人間にこれからの時代をどう生きたらいいのか。それを提案してくれる商品だろうし、人間関係が壊れていきそうな社会の中で 「人のつながり」 、「家族の温かみ」 を約束してくれるクルマだろうと思っているんですよ。
 
増田対談01室内
 
不況は地球の命を延ばした?
 
【町田】 「これからの時代をどう生きたらいいのか」 という課題に対し、キャンピングカーが教えてくれるものって何でしょう?
【増田】 今の世界的な不況をどう捉えるか、という問題と関連するんですけれど、従来どおり 「経済成長」 を目的とする視点で見てしまうと、とんでもないマイナスですよね。 
 しかし、地球温暖化を促進する二酸化炭素 (CO2) の排出を抑制することに視点を合わせると、違った見え方も出てくるでしょ。
 二酸化炭素の排出量を少なくする、…いわゆる 「低炭素社会」 ですよね。いつかは、人類はそういう社会を目指さねばならないのだし、限られた石油資源を大切に扱い、かつ石油に替わるエネルギー資源の開発速度を早めるためにもね、今回の “世界不況” は、意味のないことではない、と思っているんですよ。
 
増田対談06山の景色
 
【町田】 確かに、企業はモノが売れないことで悩みもがいて、メーカーは減産につぐ減産を行ってきているけれど、その分 「低炭素化」 は進み、資源も温存された…と。
 皮肉だけれど、どちらが人間にとっていいのか、判断のむずかしいところですね。
【増田】 もちろん、低炭素化社会の実現と産業の振興というのは、国家や企業が真剣に取り組む問題でしょうけれど、僕ら消費者だって、日常生活のなかでそういう問題を考える必要があるよね。
 そういうことはキャンピングカーから学べる。

【町田】 なるほど! キャンピングカーって 「贅沢なクルマ」 だと思われがちですけれど、使ってみると分かるんですが、あれほど 「無駄を省け!」 とやかましく訴えてくるクルマって、他にないですものね。
 タンクに積んだ水だって無尽蔵ではない。だから歯を磨きながら、蛇口を閉める。
 電気を使うときも、常にバッテリーの状況をチェックしなければならないし、ガスだっていつも充填を意識していなければならない。
 ホントにキャンピングカーは、低炭素社会を生き抜くときのいい 「教材」 になりますね。
 
増田対談02パタゴニア室内
 
リユースとリフォームの時代
 
【増田】 でしょ。…それに、キャンピングカーそのものが、「使い捨て」 ではなくて、「リユース」 を促進するような特徴を持っているんですね。
 キャンピングカーって、1台のサイクルがだいたい10年~15年ぐらいだと言われているんですよ。走るよりも滞在型のクルマなので、走行距離がそんなに伸びない。
 そのため駆動系の傷みが遅い。
 だから、家具のニスを塗り直すとか、シートや壁を張り替えるという作業を加えれば、長く乗り続けることができるんですね。
 もちろん、新車が売れてくれた方が僕らにとってはありがたいけれど、乗用車メーカーのように、毎日ラインに乗って何千台と出荷される商品ではないので、在庫調整の幅を持てる。
 また、乗用車メーカーさんにはできないけれど、僕らは、ユーザーさんが今乗っているクルマの 「リフォーム部門」 を充実させるというビジネスモデルも構築できるしね。
 

 
【町田】 確かに、リユース、リフォームという考え方は大事ですよね。今まではあまりにも 「使い捨て文化」 が蔓延し過ぎていましたものね。
【増田】 そう。たとえば、トースターとか電子レンジ、冷蔵庫のような一般的な家電だって、まだ十分使えるにもかかわらず、どんどん使い捨てにして、新しい製品に買い替えてきたわけですよね。
 今は、そういう消費構造を問い直すいい時期だと思うんですよ。

【町田】 いつ頃からか、自動車も家電も、ちょっと不具合が出るとアッセンブリー交換が主流になっていましたものね。
【増田】 そうですね。…結局、人件費が高くなっちゃったからでしょうね。修理するとなると、専門家が出向いて、時間をかけて調べて、不具合なパーツを取り出して交換する。
 それだと、ものすごく無駄な時間と労力が生まれる。
 …というわけで、ユニットごと交換しちゃえば安いし楽だ、という発想が生まれてきたわけですね。
 だけど、それって 「100のパーツの中の一つがダメになっただけで、正常に機能している残りの99を捨ててしまう」 ということになるわけでしょ。
【町田】 すごい資源の無駄使いですよね。
 
増田対談田舎の景色
 
【増田】 幸いキャンピングカーはほとんど手作り商品なので、ブラックボックスのようなものがないんですよ。だから修理するときも、それほど無駄なものが出ない。
【町田】 構造的にも 「低炭素社会」 に適合する商品というわけですね。
 
豊かな社会を実現した江戸時代
 
【増田】 結局、働き過ぎて余剰なものをつくり過ぎてしまい、その余剰なものをさばくために、さらに歯を食いしばって売らねばならない…という労働サイクルを見直す時期に来たんでしょうね。
 日本人は今は8時間労働が当たり前になって、さらにサービス残業などを繰り返して10時間を超える労働に勤しんでいますけれど、江戸時代に働いていた大工さんとか職人さんとかの労働時間というのは、だいだい4~5時間だといわれているんですよ。
 武士だって、3日に1日お城務めすれば、後は 「精神修養」 といって家で読書したり、「武芸の鍛錬」 とかいって、木刀振ってスポーツしているだけなんです。
 
江戸村風景1
 
【町田】 江戸時代の人々は、「何時になったから何をしよう」 という意識などもっていなかったといいますよね。
 ある意味、気ままに自分の時間を決めていた。
 確かに、生産性は低かったかもしれないけれど、精神性は豊かだったという見方ができますね。
【増田】 そうですよね。「江戸時代」 というと、今までは産業も文化もドロンと停滞していた時代だと思われがちでしたけれど、300年も平和が続いた国なんて、あの当時、世界のどこにもなかったわけで、そのおかげで、ものすごく文化的には洗練されたわけでしょ。
【町田】 浮世絵みたいに、世界のアートを刺激するほどの文化が生まれたのも、平和が続いたことで、庶民の審美眼が研ぎ澄まされたことの結果ですものね。
 
増田対談浮世絵1
 
【増田】 生け花、茶道、剣道。今にも残る日本文化というのは、みなあの時代に熟成したものだもんね。
 今 「持続できる社会」 という意味で、「ロハス」 という言葉を使いたがるけれど、江戸時代の方がよっぽどロハスですよ。
 日本は、西洋が産業革命に振り回されていた時代に、すでに 「低炭素社会」 を実現していたのね。
 
若者のクルマ離れの意味
 
【町田】 で、今回の世界的な大不況は、日本人がそういうことを思い浮かべるいいチャンスになると?
【増田】 これからは1日4時間しか働かないとか、給料が20万だったら、そのうちの10万で生活していくとか。好むと好まざるにかかわらず、そういう生活に方向転換するように、神様がハンドルを切ったのではないかな。
 確かにこの大不況は、人々の生活に閉鎖感も不安感ももたらしたけれど、一方では確実に、低酸素社会の実現に結びついたわけでしょ。
 結果的にこの大不況は、地球破壊を2割ぐらいほど押し止めることになったように思うんですね。
 
イチョウ並木
 
【町田】 そういうふうに考えると、「若者のクルマ離れ」 とか 「モノを買わない若者」 というのも意味があることなのかしら?
【増田】 「物さえあれば豊かな人生を送れる」 という考え方が必ずしも正しくないことに、今の若い子たちは気づいたのかもしれないね。
 たとえばね、若い子に 「これあげようか」 と言っても、今の子たちはものすごくシビアな価値観を持っていて、自分にとって必要のないものは、はっきり 「要らない」 っていうんですよ。
 極端な話 「クルマをあげようか」 といっても、自分が乗らないと分かっていれば、「いいです」 と断ってくるのね。
 彼らの物質欲の乏しさには驚かされるばかり。
 団塊の世代といわれる僕たちの方が、まだモノやカネに対する執着心って強いよね。
 
増田対談朝焼け
 
【町田】 無意識のうちに、彼らは 「低炭素社会」 の到来に向けて準備していると?
【増田】 本当にそうかもしれないと思うことがあるんですよ。
 明治のはじめに3千万人ぐらいだった日本の人口が、たった100年の間に1億人増えて、今では1億3千万人になったわけでしょ。
 日本だけでなく、中国もロシアもこの100年のうちに、石油エネルギーを使って、二酸化炭素を放出する人々の数を何倍も増やしてしまったわけですね。
 こういう地球が持つわけないんでね。
 だから、日本の若者の物質欲が薄れてきたり、さらに世界に率先して少子化になってきたりという現象は、むしろ人類が生き延びるための智恵だったりするのかもしれない。

【町田】 少子化を 「滅びへの第一歩」 と捉える人の方が多いですけどね。
【増田】 だけど、生命の遺伝子情報には、すべて 「生きのびよ」 という “盲目的な意志” が書き込まれているわけだから、少子化といったって、それは 「人類」 が滅亡するためのシナリオとは限らないじゃないですか。
 むしろ生き延びるためには、「少子化」 という選択肢も必要だということなのかもしれない。
 とにかく、これからの社会では、今までプラスが当たり前と思われていたものの多くがマイナスに転じていくことを覚悟しなければならないでしょうね。
 人口も減る。所得も減る。お父ちゃんの小づかいも減る。マグロも食べられなくなるとかね (笑) 。
 
文化にお金を払う時代
 
【町田】 そのマイナスを 「苦痛」 だと思ってはいけないと…。
【増田】 そう。経済成長が全体的に鈍化したとしても、文化的な産業は伸びる可能性があるわけで、江戸時代の人々はそれを実践していたわけでしょ。
 彼らは不動産や株に投資しなくても、歌舞伎の観賞や祭りにはふんだんにお金を使っていたわけで、「粋」 っていう精神構造はそこから生まれてきたんだものね。
 
写楽1
 
【町田】 そうですよね。これからは 「何にお金を使うか」 ということで、その人の価値観とか存在感が問われるようになるんでしょうね。
【増田】 だから 「キャンピングカーの出番」 なんですよ。
 なんたって、キャンピングカーのメインコンセプトは、「自然の中でゆっくりくつろぐ」 ところにあるわけでしょ。
 そういう自然に親しむ生活の中から、低炭素社会へ向かう筋道が思い浮かんでくるわけですよね。
 この前、アウトドア・ジャーナリストの中村達 (とおる) さんという方の講義を受けたんですけれど、その人が言うには、「自然を大事にする」 とか 「自然に親しむ」 というのは、もう子供のときの教育がすべてなんだってね。
 
増田対談喜連川
 
【町田】 分かりますね。キャンプ好きのお父さんの子供は、キャンプ好きになる。
【増田】 僕だって、キャンピングカーの仕事に携わるようになったのは、子供の頃にボーイスカウトに入って、自然と親しんできたからなんですよ。
 結局 「木々の緑は美しいよね」 というような審美眼は、親が子供に実物の木々を指差すことによって形成されるんですね。
 …ということはね、もうキャンピングカーって 「文化」 なんですよ。子供の感受性を刺激するための教育装置なのね。

【町田】 大人同士だって、生まれ変わりますよね。シニア夫婦だってキャンピングカーに乗って、山の温泉やキャンプ場に行って、心ゆくまで自然を楽しんだりすれば、お互いが相手を 「かけがいのない者」 として見直すことができるようになりますよね。
【増田】 夫婦の絆を生む 「装置」 ね。まさに 「文化」 とはそういうことをいうんだろうね。
 
  
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不況時代のRV (増田英樹氏インタビュー) への4件のコメント

  1. ブタイチ より:

    今日も良いお話ですね~。
    >豊かな社会を実現した江戸時代
    自分も江戸時代の300年という閉鎖された世の中の方が文化的に豊かであったような気がして色々調べています。
    >若者のクルマ離れの意味
    ネイティブアメリカン的な発想で言えば…
    所有とは必要とするものを活用するだけの愛情に裏付けされたもの。
    禅の世界観で言えば…
    とるに足るを知る。
    とでも言うのでしょうか?
    >文化にお金を払う時代
    人類の進歩の第二幕が開こうとしているのかもしれませんね。
    町田さんに色々なことを示唆して戴きたいものです。ヨロシクお願いします。

  2. 磐梯寺 より:

    持続可能な世界の構築という意味で「LOHAS」とか「スローライフ」という言葉が蔓延していましたが、どこか商業主義的な匂いがして、今ひとつ馴染めませんでした。しかし、江戸時代に範を求めるという説には説得力を感じます。このキャンピングカー業界の社長さんは、とてもいい視点をお持ちだと感服いたしました。町田さんともどもこういう方々が多くいらっしゃるようでしたら、この業界の発展は間違いないでしょう。オバマさんの演説で世界中が少し元気を取り戻したようですし、希望の光が少しずつ見えてきたように感じます。

  3. 町田 より:

    >ブタイチさん、ようこそ。
    いろいろな意味で、歴史の転換点を迎えているという気がしますね。
    地球環境に対する新たな認識が生まれたこともそうだし、ネットという文明がグーテンベルクの活版印刷以上の衝撃を人類にもたらしたこともそうだし、まさに天動説が地動説に取って代わられたかのような変貌が訪れている気もします。
    そういった意味で、若者のクルマ離れとか、少子化という現象も、大きな変貌と関連していると位置づける作業も必要になってくるのでしょうね。
    逆にいうと、こんなに変っていく世の中の目撃者になれたことは、われわれにとって幸せなことなのかもしれません。
    まさに、ブタイチさんがおっしゃる 「人類の進歩の第二幕」 。
    悲観的な気持ちになることなく、好奇心を持って、時代の変貌ぶりを眺めていきたいと思っています。 
     

  4. 町田 より:

    >磐梯寺さん、ようこそ。
    私はこのキャンピングカー業界といわれる世界に浸かって、かれこれ15年近くなります。いろいろな方々とお会いして、いろいろな話を聞く機会がたくさんありました。
    そして感じたことは、素晴らしい人材がたくさんいて、その方々から日々刺激を受けることのできる世界だと思ったのです。
    だから、そういう方々が日ごろ考えていること、実践されていること、そしてクルマ造りを通じて実現されようとしていること等々を、できるだけしっかりとレポートしていきたいと思っています。
    磐梯寺さんが、そういうことを受け止めてくださったことにとても励まされましたし、また感謝しております。
     

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