額の傷

 
 古いアルバムを整理していたら、20代の自分を写した写真が出てきてゾッとした。
 『仁義なき戦い』 じゃん。
 

 
 これは、ちょうど組に属していた頃で、借金の取り立てなどをやっていた時代の写真だ。
 といっても、特別アコギなことをしていたわけじゃなく、ただ、逃げ回るタチの悪い債務者に、ちょっとだけ社会の 「常識」 ってヤツを教えてやったに過ぎない。
 
 …… ってな話は真っ赤なウソで、交通事故をやってしまって、額に傷を負った時の写真だ。
 
 20代の半ばだったと思うが、交差点の右折レーンで、右折しようとしていたとき、直進車とモロにぶつかった。
 前にやっぱり右折車が 1台いて、それがモタモタしているように思えたので、それより鼻をちょっと出し、前方を確認しようとした矢先だった。
 
 飛び込んでくる直進車のボンネットが、刻一刻と迫ってくるのが見える。
 不思議なもので、そういうときは、意外と “ゆったり” 時が流れる。
 時間にすると 5~6秒だったろうけれど、その短い時間のうちに、いろいろなことを考えた。
 
 任意保険はまだ切れてないよな。
 過失割合は、3対7 … いや、2対 8ぐらいでこっちが悪いんだろうなぁ …。
 保険会社にすぐ電話しなきゃな …。
 俺ははっきりいってもうヤバイけど、相手も怪我したらどうなんだろ …。
 
 頭が高回転で回り始め、事故後の処理が次々と思い浮かんだ。
 で、ぶつかった衝撃で、フロントガラスを割って、頭が半分くらい外に飛び出した。
 
 当時は、まだシートベルトが法制化されていなかった時代。
 シートベルトの着用指導はなされていたが、しなくても罰則規定はなかった。
 
 で、ズボラでかつ生意気な自分は、そのシートベルトをしていなかった。
 交差点の真ん中で、お互いに鼻がめり込んだクルマが 2台が立ち往生することになった。
 
 深夜だったので、交通量が少ないことだけが救いだった。
 急いで、ドアを開け、
 「大丈夫ですか?」
 と相手のドライバーのところに駆け寄った。
 
 が、前が見えないのである。
 生温い体液がどろどろ吹き出して、両目を覆ってしまうのだ。
 額からしたたり落ちる血だった。
 
 「こっちは大丈夫だから、あんた額の傷を…」
 と、相手のドライバーが逆に気づかってくれる。
 
 クルマを交差点から押し出して、歩道の脇に寄せ、警察と救急車を待った。
 額の流血が止まらない。
 放っておくと、血はヨーグルトのような粘着物に変わり、顔に付着したまま層をなしていく。
 それを手ではぎ取り、道路に投げ捨てる。
 
 そんなことを繰り返しながら、縁石に腰掛けて、救急車が来るまで煙草を吸った。
 煙草はたちまち赤く染まり、ひと口ふた口吸うと、すぐ火が消えた。
 
 この写真には、そのときの額の傷跡が写っている。
 20針縫った跡だ。
 ようやく収容された救急病院で、若いインターンの先生が、額の中に突き刺さったガラスの破片を、いくつもいくつも指でほじくり出してくれた。
 先生の手も血まみれになった。
 
 ある程度のガラスを取り出してから、止血のために縫った。
 その病院では、麻酔薬が切れていた。
 麻酔なしで縫うという。
 針が皮膚に突き刺さり、それをギュッとすくい上げて、皮膚と皮膚をつなぐ。
 その感覚が、すべてリアルに伝わってくる。
 針が刺さる瞬間も痛いけれど、糸を引っ張って縛るときの痛みの方が、何倍もきつかった。
 
 病院には10日ほど収容されてから、“出所した” 。
 会社に出ると、額の傷を見て、みんな声を飲んだ。
 通勤時間帯。ホームに立っていると、スゥーッと周りの人の引く気配がする。
 どうしてかな…と思って鏡を見ると、確かにアブナイ系の人間の面相になっている。
 
 どうせなら、ファッションもアブナイ系にするか。
 そう思って、黒シャツと白いネクタイを買った。
 
 先ほどのはそのときの写真だ。
 この格好で駅のホームに立つと、前よりさらに人の気配がサァッと遠のいていくのが分かった。
 
 こういう格好で電車に乗り、自分の前に立っている老人に席を譲ろうとすると、もうそれだけで、老人は何度も首を横に振り、必死になって遠慮する。
 
 いつもなら、「どうぞ」 とにこやかに声かけるのに、こういう時は、
 「おう」
 と、ぞんざいに席を立つ。
 むりやり座らされた老人も、生きた心地がしなかったかもしれない。
 悪趣味をさんざん楽しんだ20代半ばのことだった。
 
白スーツ黒シャツ
 
▲ こんな写真も同じアルバムから出てきた。芸人気取りだったようだ。
 しょうもねぇ20代だったと…今思う。

 

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額の傷 への8件のコメント

  1. Dreamin' より:

    町田さん!
    一枚目、めっちゃダンディじゃないですか!
    新宿の裏通りを生業にしてたといっても、まったく違和感がありません。
    しかし、事故には気をつけないといけませんね。
    町田さんは”なにげ”に書いていますが、実は九死に一生ものだったのでは…?
    でも、深夜にニヤリとしてしまいました。
    ハードボイルドな町田さん、新発見です。
    20代のオモシロ?話、次回作にも期待が高まりますね!

  2. ミペット1号@久しぶり より:

     こんにちは、急に消えてしまって、申し訳ないです。色々と事情が変わってしまって、例のモペットの製作も棚上げになってしまってて。
     それにしても、ずいぶん切ったんですね・・・。頭の怪我は、結構血が出るし、びっくりしますよね。後遺症は大丈夫です??頭の方に後遺症でなくても、頸椎に損傷があると大変で。ウチも全部合わせると20針ぐらいは縫ってて。
     実は度重なる事故の後遺症かどうかははっきりしないけど、数年間謎の痛みに苦しめ続けられてて、今回その原因が低髄液圧症候群って言うのが解って。
     これ、凄く苦しいけど、事故の怖さよりも、走りの楽しさの方が勝ってるんだから、結構バカかも知れない・・前向きに治療して、趣味、楽しみます!!!
     町田さんも、ご自愛下さいませ!!身内に不幸があったので、新年のご挨拶はご勘弁願いますが、本年もよろしくです。

  3. ブタイチ より:

    町田さんの魅力の根っこをみたような気がします。

  4. 町田 より:

    >Dreamin’さん、ようこそ。
    若いころ歌舞伎町はよく行きましたが、こっちはカモの方でした。
    怪しげな店でふんだくられたり。
    文句を言おうと思うと、ボックスに座っているこの写真みたいな兄ちゃんが、首を回して 「何か?」 って言いかける顔つきで、ちょっと振り向くだけ。
    それだけで、シュンとしてもう何も言えなかったり…。
    事故は確かに怖いですね。でもこの体験のおかげで、以降ずっと優良ドライバー。もうゴールドカードになって十何年ですかね。
     

  5. 町田 より:

    >ミペット1号@久しぶり さん、ようこそ。
    ブログも閉鎖されていたようなので、どうされたのか心配しておりました。ご無事であることが分かって何よりです。
    ミペットさんも大変な怪我をされたんですね。後遺症を抱えての生活、さぞやご苦労されていることでしょう。少しでも早く快方に向かうことをお祈り申し上げます。
    寒さが一段と厳しくなってきました。ミペットさんもご自愛ください。
     

  6. 町田 より:

    >ブタイチさん、ようこそ。
    いえいえ 「魅力」 だなんて。
    ただ 「オレオレ度」 が高かっただけです。
    今も変りませんが…。
    恥かしいと思いつつ、こうやって堂々と載せてしまうんですからね。

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