大晦日は地中海で

 
 じたばたしても、泣いても、わめいても、今年も今日1日で終わり。
 こうなってしまったら、もう泰然自若と構え、酒でも飲みながら、本でも読む休日にしよう。
 そんな思いで買ってきた  『ローマ亡き後の地中海世界』 (塩野七生) 。
 最近、こういう本を読んでいなかったなぁ。
 
ローマ亡き後の地中海世界
 
 世界の経済がどうだとか、大人の文章を書くにはどうせよ … とか。
 社会を切り取るものとか、実用的なノウハウ集とか、いつの間にかこぢんまりと縮こまった本ばかり読むようになっていた。
 「すぐ役に立つ本」 ではなく、「いつか役に立つ…かもしれない本」 を読もう。
 そんな気持ちにぴったり応えてくれそうな1冊だ。
 なんたって、自分の好きな “海賊の話” なんだ。
 
 5世紀頃、地中海を自分たちの 「内海」 にしていたローマ帝国が滅ぶ。
 そして、その海は、キリスト教の勢力とイスラム教の勢力がそれぞれ支配権を争う対立と抗争の海になる。
 ヨーロッパ諸国は、三角帆を張ったサラセン海賊の快速船の脅威にさらされることになる。
 
 へへへ…だね。
 コーエイの 『チンギスハーンⅣ』 とか 『大航海時代』 の世界が広がりそうだ。
 
 とにかく 「地中海」 が好きなんだ。
 ありゃ特別な海だ。
 文明と文明が交錯し、衝突し、融合し、人類の英知と、快楽と、悲劇と、勝利の歓喜を運んだドラマの舞台だ。
 
地中海
 
 ギリシャ、ローマ、カルタゴの時代から始まり、ヴェネチアが商業国家として栄え、ジェノバの商人が活躍し、オスマン・トルコがコンスタンチノープルに進出して、東地中海に君臨する。
 もう目がくらむほどの絢爛豪華な歴史絵巻の世界。
 それらのドラマはみな地中海から生まれている。
 
 北アフリカから湿った熱風を南ヨーロッパに運ぶ 「シロッコ」 。
 帆がはちきれんばかりに風を孕ませ、東から西へと吹き渡る 「レヴァンテ」 。
 地中海に吹く風は、名前さえもカッコいい。
 
 遊び人風の細いヒゲを赤銅色に輝く頬に浮かべ、まぶしそうに目を細めながら舵を取るイスラムの海賊たち。
 刃物のように鋭利な頭脳を、紳士然とした振る舞いで隠し、敵の国を騙しに向かうヴェネチアの貴族たち。
 この海を航海して行く野郎たちは、みな大胆不敵で、粋で、小ずるくて、残忍で、美しい。
 
ガレー船
 
 朝は、水底まで見通せるほどの透明度を獲得し、昼は 「紺碧」 に輝き、夕は、ホメロスいうところの 「ブドウ酒」 色に染まる海。
 そして、落日が水面に落ちれば、見事な “金色のジュウタン” があたり一面に敷き詰められる。
 そこにあるのは 「豊穣」 と 「虚無」 。
 
海に沈む夕陽
 
 地中海、好きだ!
 オレが死んだら、骨を粉にして、地中海に撒いてくれ。
 ……ってなわけで、それでは皆さん、また来年。
 

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大晦日は地中海で への10件のコメント

  1. 磐梯寺 より:

    いつもながらの町田節。冴えてます。町田さんの文章の特徴は正反対の概念を並列に連ねてダイナミズムを生み出すところにあるような気がします。この文章でも「この海を航海して行く野郎たちは、みな大胆不敵で、粋で、小ずるくて、残忍で、美しい」と、まったく価値概念が異なる言葉を平気でつなげて、一つの世界を創りだしています。最近ようやく町田節の秘密が解けました。確か昔土方歳三をテーマにしたブログでも「この小説の魅力は、負から正へ、邪から聖へと鮮やかに転換を遂げるときのダイナミズムにある」と書いていらっしゃいましたね。異なる世界をひとつにドッキングさせたときの核融合反応が生むスパークが鮮やかです。来年も楽しみにしております。良いお年をお迎えください。

  2. くわがた より:

    古代ギリシアの衰退滅亡の影に、ユダヤ人の政治力がはたらいていた。なんといっても両者は、多神教と一神教という相容れない関係だから、古くから仲が悪かった。そして、ローマ帝国の東への拡大にも、ユダヤ人が加担していて、それによって彼らはローマの特権階級の地位を得ていた。
    さらに、ローマ亡きあとのそのまたあとにヨーロッパの南と北の勢力関係が逆転していった原因の一つに、キリスト教によって地中海沿岸から追放されたユダヤ人が北に流れていったということにも一因があるらしい。
    ユダヤ人は、つねにヨーロッパの歴史のフィクサーとして暗躍してきた。
    ということを、誰かが言っていました。
    あまり冒険ロマンとは縁のない話だけど。

  3. 凪子 より:

    町田さん、先日は大変失礼いたしました。今年も一年間、ブログ連載お疲れ様でした。楽しく拝見させていただきました。そして今年もいろいろとお世話になりました。
    町田さんのブログは毎日の楽しみのひとつ、今や私にとっても生活の一部、日常となっています。
    何が飛び出すのかわからないのが魅力ですね。
    個人的にはたまに見られる、ぶっちゃけトーク的、ちょっと世間にキレた風の日?あれ好きですねえ。素の町田さん?いえいえそんなことありませんね、失礼しました。普段の町田さんは紳士的で穏やかな方ですものね。
    でも来年もオレオレトーク、期待していますね。
    それでは来年も楽しみにしております。良いお年をお迎えください。

  4. 磯部 より:

    一年の締め括りに相応しく、冴えわたったブログですね!
    スケールもでかいし、ロマンいっぱい!
    なんだか地中海に行きたくなりました!
    私も正月はセコイものはやめ、どどっと胸に迫るような本を堪能します。
    今年一年、ホントにありがとうございます。来年もよろしく!

  5. 町田 より:

    >磐梯寺さん、ようこそ。
    昔書いた拙文までお読み頂いたようで恐縮しております。
    それにしても磐梯寺さんの鋭い突っ込みにはびっくり! 
    人の書いた文章をあれこれ分析したりすることばかりしていた自分が、よもや他の方から文章解析して頂くとは思いもよりませんでした。
    しかも、核心をズバリ突かれるようなご指摘で、うれしいと思うと同時に、若干うろたえております。
    >「まったく価値概念の異なる言葉を平気でつないでしまう」…というのはクセなのでしょうね。無意識にやっていたことですが、たぶん 「一つの見方に固執してしまう」 というのが嫌な性分だからなのかもしれません。
    磐梯寺さんも良いお年を。またお立ち寄りください。
     

  6. 町田 より:

    >くわがたさん、ようこそ。
    西洋史の中に占めるユダヤ人の影響力に触れることができて、非常に勉強になりました。
    おっしゃるように、世界の歴史を考察する場合、ユダヤ人問題を避けて通ることはできませんね。それは現代の政治・経済の考察においても継続しているのでしょうね。私は不勉強なゆえ、ユダヤ教とユダヤ人の成り立ちについてあまり知識も教養も持ちません。
    しかし、現在の金融社会の思想を支えるバックボーンとしてユダヤ的な思考が大きく影響していることは間違いないことで、ユダヤ人問題を考えることは、政治・経済・哲学を横断するスケールの大きなテーマに触れることだという気はしています。
    またいろいろご指導ください。くわがたさんの来年が良い年でありますように。
     

  7. 町田 より:

    >凪子さん、ようこそ。
    当ブログに対する過分なご評価を頂き、恐縮しております。
    本当に 「何が飛び出すか分からないブログ」 で、自分もまた携わっていて混乱してばかりおります。
    でも、凪子さんのような温かいコメントを頂けることで、一息ついています。
    「ぶっちゃけオレオレトーク」というのは、まぁ酔って書いているときが多いですね。少しシラフになって読み返すと、自分でギャっとしちゃうこともあるんですけど、まぁ…それもまた自分の真実でもあるのだし、そのままにしちゃうんですけどね。
    今年も凪子さんには楽しい語らいの時間などを頂くことができて、実りの多い1年でした。来年もよろしくお願い申し上げます。
    それでは、良いお年を。
     

  8. 町田 より:

    >磯部さん、ようこそ。
    いつもコメントを通して励ましのお言葉など頂くたびに、磯部さんには感謝しております。
    古代史~中世史に出てくる地中海って、今の “地球” 以上にスケールのでっかい海だったように思います。
    今はグローバル (地球規模) っていう言葉が世界を表現するときに使われていますが、通信網がこんなに発達してしまった現代の “地球” というのは、情報や危機の伝達も昔より比較にならないくらい早くなり、その分 「世界」 が縮まってしまったかのように感じます。それに比べ、古代の地中海は雄大だったと思うのです。
    今年1年、こちらこそホントにありがとうございました。
    良い年をお迎えください。
     

  9. TJ より:

    本年はありがとうございました!!
    来年もよろしくです^^

  10. 町田 より:

    >TJさん、ようこそ。
    ご返事遅くなってしまい、新年のご挨拶となります。
    旧年中は、いろいろと示唆的なコメントなど頂きまして、本当にありがとうございました。TJさんのブログも面白く拝読いたしました。
    本年もまたよろしくお願い申し上げます。

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