ブランドとは何か

 
 商品には、消費者の憧れのアイテムとなり、特別に神格化される商品がある。
 通常、そのようなものを 「ブランド」 と表現する。
 キャンピングカーも例外ではない。
 この世界にも、購入者の熱い眼差しを集め、他の業者も一目置いて評価するような商品が確かに存在する。
 
 しかし、キャンピングカーの 「ブランド」 という場合、どのようなクルマがそう呼ばれるようになり、またそう呼ばれるクルマは、どのようにして生まれてきたのか。
 
 そこのところが、今ひとつ分からない。
 「キャンピングカーにおけるブランドとは何か」
 2008年11月初旬に開かれた 「お台場くるま旅パラダイス」 の会場で、カトーモーターの加藤次巳智社長に、「ブランド」 についての考えを聞く機会があった。
 
カトーモーター加藤社長
 
 面白い話だったので、その一部を、ここにちょっとご紹介。
 
【町田】 金融不安とか株価の乱高下などがあって、キャンピングカー業界の業績不振を心配する声も多いけれど、カトーさんのところはどうですか?
【加藤】 まったくそういう影響がないといえばウソになるけれど、うちは、あまりそういうことの影響をこうむらないような商品開発と売り方をしてきたつもりなんですよ。
 反面、景気がいいからたくさん売れるというクルマではないんでしょうけどね。
 
【町田】 なるほど。最初から 「カトーモーターさんの造ったクルマが欲しい」 という人の気持ちは、そう簡単に萎えることがないし、どんな状況でも必ず固定ファンがいる…という意味ですね。
【加藤】 そう自信を持って言えるわけではないんですが、確かに 「高いから買わない、安いから買う」 というだけのクルマを造ってはこなかった…という気持ちはありますね。
 
【町田】 それは、カトーモーターのクルマが 「ブランド」 になっているということですよね。やっぱりブランドは不況にも強い。
【加藤】 そう言ってもらうとうれしいけれど、でも、そこに至る道のりはけっこう長い道のりですよ。
 
【町田】 それはそうですね。ブランドになるってことは、高級車を造ればいいという問題でもないから。
 やっぱり何年もかけて総合的につくり上げていくものでしょ?
【加藤】 「何年」 でも、できるかなぁ…。少なくとも10年。もっとかなぁ…。
 最低10年の歳月を経ないと、ブランドというのは成立しないと思いません?
 つまりね、「内装もいいし、いろいろな機能も付いていて、考えているよね、このクルマ」 とお客様に言ってもらえるような商品というのは、1~2年では生まれないと思うんですよ。
 
【町田】 では何年?
【加藤】 うちだって、家具などを製作する体制をつくろうとしたら、それに従事する人を一人育てるだけで 5年はかかるんですね。
 3年ではまだうちの会社のメンバーにはなれない。
 やっぱり 4~ 5年在籍して、やっとうちの社員としての考え方ができるようになると思っているんですよ。
 だから、まず 「人づくり」 に 5年かかる。
 
【町田】 そうか。ブランドって、「モノをつくる人」 づくりから始まるということですね。
【加藤】 そこから先がありますね。そうやって商品が世に出てから、さらに 5年。
【町田】 「ローマは 1日して成らず」 か…。
 
カト-モーターDD
▲ カトモーター 「DD」
 
【加藤】 基本は 「人」 ですね。うちは意外と社内が厳しいんですよ。私が厳しく指導するという意味ではなく、社内の空気が厳しい。
 だから、それに付いて来れない人が出てくることもあります。
 それは、長い仕事時間を設けて拘束するということではなく、クオリティの高さを求めるという意味で、厳しいんですけどね。
【町田】 そうやって、人が育って、ようやく商品としてのブランドの萌芽が生まれると。
 
【加藤】 ええ。あと、やっぱりブランドって 「信用」 でしょ。その信用をどう構築していくか。
 うちは直販が主体だから、クレームがあると、日本中のほとんどのお客様のところに行っているんですよ。
 極端な話、扉ひとつの調整でも、自分たちで行く。
 ただし、ひとつのことだけで交通費かけて出向くのはもったいないですよね。
 だから、お客様にはこう言うんです。
 「ちょっと我慢してもう少し使ってみてください。それ以外に悪いところをアラ探ししておいてください。まとめて直しますから」 って。
 
【町田】 そうなると、サービスにかかるコストが莫大なものになりません?
【加藤】 その通りなんですね。だから、あまりにも遠隔地のお客様には、買うのを控えていただくこともあります。
 「申し訳ないですけどサービスが行き届かなくて、かえってご迷惑をかけることがあるかもしれませんから…」 って。
 でも、買っていただいたお客様には、できるだけ自分たちでサービスに向かうようには務めています。
 
カト-モーター室内3
 
【町田】 偉いですねぇ!
【加藤】 でも、それが 「ブランドの構築」 ということにつながるわけじゃないですか。
 カトーモーターのブランドを買っていただいたわけだから、それを損なうようなことは自分たちもできませんから。
 
【町田】 確かに、ブランドというのは築くのは大変だけれど、壊れるときは一気に壊れるといいますものね。
 ブランドの核心となるものは、確かに商品としてのクオリティだけど、もうひとつは 「誠実さ」  ですよね。その両方がブランドを支えるのであって…。
【加藤】 だから、うちはよく営業スタッフに 「モノを売るな」 と言っているんですよ。
 モノを売るのではなくて、「気持ちを売れ」 と。
 うちのクルマを 「モノ」 にしたら、必ず 「高い」 とか 「安い」 という価値観でしか見られなくなる。
 高いか安いか…だけでは、お客様にもその商品を 「愛そう」 という気持ちが生まれにくい。
 
【町田】 確かに、そこのところがセールスのキモですよね。
【加藤】 基本は、お客様に 「安心」 を売るところにあると思うんですよね。
 だからうちは、イベントでも、できるだけ多くのスタッフが参加するようにしているんですよ。
 というのは、ショーの会場というのは、新規のお客様にクルマを見てもらって買ってもらうという場ではあるけれど、それ以外に、すでに商品を買っていただいたお客様との交流の場であると思っているんです。
 
【町田】 なるほどね。
【加藤】 だから、できるだけ多くのスタッフが参加して、お客様からじかに 「今度ここを見てほしい」 とか、「こんな改造を考えている」 という声を聞くようにしているんです。そのために、担当の営業が必ず会場にいる必要があるんですね。
【町田】 なかなかできないことですよね。
 
【加藤】 でも、そうやって商品を買ったお客様が安心している様子を、新規のお客様に見てもらうことが、何よりも商品をアピールすることつながると考えているんですね。
 だってイベント会場で、ユーザーさんがニコニコ楽しそうにしていれば、はじめてのお客様だって安心できるじゃないですか (笑) 。
 そこが乗用車の売り方にはないキャンピングカーの展示会の良いところですよね。
【町田】 乗用車メーカーと同じことをやっていてもダメということですね。
 
【加藤】 完成度も違うし、商品が意図する世界がもう違いますよね。キャンピングカーと乗用車は明確に違うというところを出さないと。
 だから、うちはバンに簡易ベッドを組み込んだようなキャンピングカーは、オーダーではお造りしますが、オリジナルとしては造らないようにしているんです。
 今そういうバンコンが売れるように思われているけれど、そうやって値段を下げて造っても、乗用車メーカーが開発するワゴンやミニバンにはかなわないと思うんですけどねぇ。
【町田】 そこは勝負する 「土俵」 じゃないと。
 
【加藤】 ええ。うちはキャンピングカーとしての価値が明確に分かるような商品で勝負したいんですね。
【町田】 でも、それは…さっきの話じゃないけれど、カトーモーターさんが 「ブランド」 を築いているからこそ言えることであってね。
 その域まで達していないビルダーさんは、どうしても価格で勝負したくなると思いません?
 
カト-モーター室内2
 
【加藤】 もちろんそれは否定しませんけれど、でも、そういうクルマでは「個性」 を盛り込むことが難しくなるでしょ。
 「個性」 のところで乗用車との差異化があってこそ商品の魅力が生まれるのであってね、そこを失ってしまうと、…どうなんだろうなぁ…。
 
【町田】 分かりますよ。それは大事なことですね。これは、日本でキャンピングカーを使う環境とも密接につながる話なんだけど、クルマに個性がなければ、旅にも個性が生まれないと思うんですね。
【加藤】 あ、そうですよね。
 
【町田】 つまりね、たとえば定年退職をされた方がキャンピングカーを使って 「日本一周をしたい」 と旅に出ても、ほら、日本っていまどこに行っても便利すぎるじゃないですか。
 どこにもコンビニがあるし、日帰り温泉はあるし、駅前に行けば便利な駅ビルが建ち並んでいるし。
 だから高速道路でも、道の駅でも、みんな同じ風景になっている。
【加藤】 「異国」 の雰囲気があるのは北海道ぐらいですよね。
 
【町田】 そこが、簡単に国境を越えられるけれど、国が変われば、言葉も文化も風景も、食べ物も変わるヨーロッパなんかと違うところでね。
 アメリカだって、雪山をいただくロッキー山脈から、常夏のフロリダまでぜんぜん違う風土を楽しめる。
【加藤】 そこが日本の観光の痛いところかな。
 
【町田】 それは日本の観光行政も悪いんだけど、便利にすることによって、風景を均一化してきたじゃないですか。
 そういうところを旅するときに、最後の拠り所となるなるのは、クルマの個性なんですよ。
 便利なだけでなく、楽しいキャンピングカーになっていなければならない。インテリアでも何でも、空間そのものが生き生きとしていなければならない。
 そう思うと、加藤さんの造っているキャンピングカーなんか、まさにそこを満たしていると思うんだけどなぁ。
 
【加藤】 うれしいですね (笑) 。確かに、ただ 「便利」 というだけでは、ホテルに泊まった方がいいものね。
 やっぱり、クルマそのものがかもし出す雰囲気が、ホテルとも乗用車とも違っていなければね。
【町田】 クルマの個性って、キャンピングカーだからこそ出せるところがあるじゃないですか。
 乗用車にそれを求めるとしたら、それこそエキゾチックなイタ車とかダンディーなイギリス車とかになる。
 でも、キャンピングカーってそれとも違う、車内で食べて、くつろいで、寝泊まりするときのエキゾチシズムってあるよね。
 
【加藤】 うんうん。それを目指せばいいわけだよね。
【町田】 キャンピングカーの未来は広がっているなぁ。
【加藤】 そこのところをうまく実現すれば、またブランド力が付くわけか。
【町田】 はい。お後がよろしいようで (笑) 。
 
 

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