ラーメン屋 vs マクドナルド

 
 「裸の二人が身体をからませ…」
 なんていうキャッチに目を奪われて取りあげみたら 『大相撲写真集』 だったとか、「高級ログハウス1棟3万円!」 なんていうポスターに惹かれて店に入ったらペット用だったとか…。
 そんなたぐいの、思わせぶりなキャッチで人目を惹いて消費者の意識に刻印を残そうという商品がやたら増えたような気がする。
 
 本においてもしかり。
 最近の本は、タイトルから “中身” を想像することが難しい。
 
 『ラーメン屋 vs.マクドナルド』 (竹中正治著 新潮新書)
 
 はたして、このタイトルから、人はどんな本を想像するだろうか。
 ラーメン屋を始めるのと、マクドナルドのフランチャイズ店に加盟するのとではどっちが儲かるか? …というような本だろうな、と思う人も多かろう。
 あるいは、麺文化とパン文化の違いを解き明かす 「食材文化論」 か?
 いろいろな推測が可能だ。
 
ラーメン屋vsマクドナルド
 
 だけど、実際にこの本を手に取ってパラパラとめくってみると、
 「スコアリング方式の本質は、融資のリスクとリターンに関する確率的なアプローチに基づいた融資ポートフォリオの管理である」
 「銀行についても商業銀行とインベストメント・バンクでは水と油ほど違う。一般個人や個人事業主などを対象にするリテイル・ビジネスや…」
 …… ???
  
 著者は金融のプロであるらしく、金融にうとい私なんぞには想像だにも及ばない難解用語がところどころに散りばめられている。
 基本的には、金融モデルの違いを軸にして日米の比較を解き明かす本だ。
 
 といっても、小むずかしい本ではまったくない。
 アメリカで活躍した日本人エコノミストが、日本人とアメリカ人の感受性の違い、金銭感覚の違いなどを、豊富な実例と大胆な推論で説き起こした 「日米比較文化論」 なのだ。
 
 で、一方が 「ラーメン屋」 で、もう一方が 「マクドナルド」 ……?
 やっぱりこの比喩が分からない。
 
 著者にいわせると、こうだ。
 アメリカのマクドナルドのようなビッグ・ビジネスは、市場の最大公約数的な需要・好みを対象にして運営されるので、必然的に、全世界的に商品 (味) がパターン化され、創造性が関与する余地がない。
 それに対し、日本のラーメン屋は、同じファーストフードとはいえ、最大公約数の需要・好みを優先するのではなく、製作者が自分らのセンスにこだわって、多種多様なものを創出しているので、ビジネス規模は小さいが、多様でユニークなものが供給される。
 
 …というわけで、マックとラーメンが、アメリカと日本のビジネスモデルの対比を表す比喩として使われているわけだ。
 
 しかし、ここで展開されるマックとラーメンの比喩が成立するビジネスとはどのようなビジネスのことをいうのだろう。
 
 著者は、そのひとつの例としてアニメビジネスを挙げる。
 日本のアニメや漫画、あるいはゲームソフトは今や世界的なブームとなっているが、それらが海外でウケる秘密として、著者は日本的アニメビジネスの 「チープさ」 に目をつける。
 動画が自然な動きを見せるためには1秒間に24コマが必要となる。
 
 ところが、限られた時間内に、限られた制作費で番組を作らねばならない日本の製作者たちは、1秒を8コマで制作しなければならなかった。
 しかし、その 「チープさ」 を逆手に取り、日本アニメの製作者たちはさまざまな節約工程を開発、駆使してその苦境を乗り切った。
 キャラクターがスムースに動くコマ数が取れないために、日本の古典芸能である歌舞伎の動きなどを技法化する手法を試みたりして、外国製アニメにない動きも創出した。
 その結果、それ自体がワザの体系となり、日本アニメ特有の面白い動画が生み出されてきた…と著者はいう。
 
ドラゴンボール1
 
 外国人が日本アニメを見て感じるエキゾチシズムやチャーミングさというのは、限られた時間と資金の制約のなかで、製作者が職人的な腕をふるう中から生まれてきたというわけで、まさに 「ラーメン屋」 。
 
 一方、ディズニーアニメのような世界市場を意識したのものは、巨大資本を必要とするため、何から何まで大がかりとなる。
 しかし、失敗するわけにはいかないので、市場の最大公約数の需要を満たすつくりにならざるを得ない。
 そのため、どのような世界を描いてもパターン化され、感動の形もお仕着せじみたものになる。
 だから 「マクドナルド」 。
 
 そこまで言われて、ようやく 『ラーメン屋 vs.マクドナルド』 という書名の意味が分かってくるのだが、ただし、そのキーワードが登場するのはわずか1ページだけ。
 そういった意味では、人目を惹くためだけに考えられた 「キャッチのためのキャッチ」 なのである。
 
 しかし、アメリカの大物エコノミストたちと丁々発止のディベートを繰り広げてきた著者だけあって、目の付けどころもいいし、論理展開も面白い。
 日本人は、マスコミの表現でも 「危機」 や 「崩壊」 が好きで、政府要人の答弁においても 「難局の打開」 とか 「気を引き締めて」 という危機感をあおる文言が好まれる。
 一方、アメリカ人は 「繁栄」 、「未来」 、「希望」 、「情熱」 などの明るくポジティブな表現を好む。
 この差は何なのか?
 
オバマ氏
▲ いつも明るく 「チェンジ!」 と叫ぶオバマ氏
 
 アメリカ映画に出てくるヒーローたちは、戦って血まみれになってボロボロになっても、しぶとく生き残って、最後は親指を上に向けて 「ニッ」 と笑う。
 
 一方、日本のヒーローはパッと散るような悲壮な最期を遂げる。
 この差はどこから来るのか?
 日本人とアメリカ人のメンタリティの分析は、ときに日本の天皇制の構造分析にまで及び、漢字とひらがなカタカナが混入する日本語と、24文字ですべて片がつくアルファベッドの違いに着目した言語論にまで広がる。
 導き出された結論には、時にはステレオタイプ化されたものもあるが、事例を取り出すときの視点にはユニークなものが多く、ハッとさせられる。
 
 アメリカ発の金融危機に世界中が呑み込まれている今日、日本に生き残る術 (すべ) はあるのか?
 その答を探る意味においても、タイムリーな本であるかもしれない。
 
 

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ラーメン屋 vs マクドナルド への2件のコメント

  1. TOMY より:

    「ラーメン家vs.マクドナルド」この本、私も興味がありまして読もうと思っています。
    ネットで本を捜していたら、たまたまヒットしました。
    町田さんも指摘しているとおり、本の題名って大事ですね。
    特に私のようにあまり本を読まない人間が、たまに「何か読もうかなー」と思ってネットに向かって捜す時に、まず題名が心に響くかですね。その次に本の表紙です。その両方がヒットしたのが今回はこの本でした。両方がヒットすると、次に紹介文を読んでみます。ほとんどは、両方がヒットした本は私には興味があるもので、読む価値があったものばかりです。
    町田さんのような読書家でない私が、同じ本に興味をもったことが嬉しくてメールしてしまいました。

  2. 町田 より:

    >TOMYさん、ようこそ。
    きっとTOMYさんの期待を裏切らない本だと思いますよ。
    この本の良いところは、著者の竹中さんという方が、アメリカで出会ったエコノミスト、銀行員、自動車ディーラーの販売員などと生きた会話を交わした体験談をベースに書かれているところです。
    たとえ結論が抽象的な文化論になったとしても、そこにたどり着くまでのプロセスには具体性があります。
    ここに描かれるアメリカ人たちの姿は、日本人とはずいぶん違う人種なんだな…と分かる反面、同じ人間としてはとても共感できる部分もあって、私にはすごく面白く読めました。
    もしよろしければ、TOMYさんの感想などもお寄せください。

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