白いページの中に

 
J ポップ・クリティーク4 白いページの中に
 
 こんばんは。町田です。
 毎週火曜日にお送りする「Jポップ・クリティーク」。
 今日は「別れ」というものをテーマに語っていきたいと思います。
 
 別れ。… ね。
 「会うは別れの初めなり」 …なんていう言葉がありますけれど、まさに、一生の間には様々な別れがあります。
 学校を卒業して、友達と別れる。
 あるいは、好きだった恋人と別れる。
 親や兄弟を亡くしてしまう…なんていうのも別れですね。
 
 別れは、必ず人生の大きなターニング・ポイントになります。 
 ある程度年をとってきて、自分の生き様を振り返った時にですね、
 「あ、あれが自分の転換点だったんだぁ… 」
 と思うことがありますが、そういう時には必ず「別れ」があったはずなんですねぇ。
 
白い灯台_ホッパー
 
 大きな別れ。小さな別れ。
 まぁ、いろいろな別れがありますけれども、人生の節目には、必ず別れがあります。
 それはですねぇ、「人」と「人」の別れではないかもしれない。
 自分が大切に思えていたものを捨てる、…とかですね、あるいは、自分がそれまでこだわっていたものを捨てる。 
 … ね。そういう、過去の自分自身から別れる。
 それも、別れですね。
 
 そうやって人はですね、新しい一歩を踏み出していくわけですね。
 
柴田まゆみ 白いページ
 
 … ということで、今日は柴田まゆみさんが歌われた『白いページの中に』という歌を聴きながら、「別れ」について考えてみようと思います。
  
(↓ YOU TUBE)

 
 聞いていただきましたのは、柴田まゆみさんの『白いページの中に』でした。
 ちょっと歌詞をもう一度振り返ってみましょうか。
 
 … いつの間にか私は、
 愛のゆくえさえも、
 見失っていたことに気づきもしないで、
 振り向けばやすらぎがあって、
 見守る瞳があったことを、
 サヨナラの時の中で
 やっと気づくなんて
……
  
 コードをたどっていくと、ここまでは、Am7、D7、Gmaj7、Em…という流れですね。
 とにかくセブンス系の音が多くて、とてもお洒落です。
 「別離」がテーマなんですが、この耳に優しい涼しげなコード展開のために、リゾートホテルかなんかのコマーシャル音楽…ってな感じもありますな。
 
ホテルのテラス
 
 こういう、とびっきりお洒落な出だしの中で、自分を見守ってくれた人が去り、その後で、やっと彼の優しさに気づいたという主人公の内面が、静かに、内省的に語られていくわけですね。
 けっこう内心の悔しさがにじみ出ている歌詞です。
 ああ~~ … って感じですね。
 「後悔先に立たず」
 「覆水盆に帰らず」
 … そういった心境を歌った歌でありますが、この歌詞の中に、「別れ」というものの本質があるように思えます。
 
 「別れ」という言葉はですね、なかなか意味深長な言葉なんですね。
 別れ、別れ、わかれ、解かれ! 
 …ね? こう連呼していくとですね、いつの間にか意味が変わってくることに気がつきませんでしたか? 
 そうなんです!
 「理解する」という意味での 解かる」の命令形になってくるんですね。
 「俺の気持ち、解かれよ!」
 とかね。
 そういう時の「解かれ!」と同じ言葉になるんですね。
 これは何も言葉の遊びではないんですね。
 
 実はですね、別れるという意味の「別れ」はですね、「理解しろよ」という意味の「解かれ!」の命令形ときわめて近いものがあるんです。
 つまり、別れるということはですね、「何かが解かった状態」なんです。
 
 いったい何が解かったのか。
 それはですねぇ、別れることによって、初めて「去っていった人の大切さ」、あるいは、「失ったものの大きさ」が解かるということなんですね。
 つまり、「別れる」ということは、誰かが「お前の失ったものの大切さを解かれ!」と、命令形の形で教えているわけなんであります。
 
 いったい誰が教えているのか。
 … まぁ、ある人は神様というかもしれませんし、別の言葉でいえば「自然の摂理」ということになるかもしれないんですが、とにかく人間を超えた大きな力が、「解かれ!」と命令してくるわけなんですね。
 先ほど聞いていただきました、柴田まゆみさんの『白いページの中に』という曲はですね、まさにそのことを歌っています。 
 
 さて、この主人公は、別れることによって、いったい何を発見したんでしょうか。
 サビの部分に注目してみましょう。
 
 …… 長い長い坂道を、今登っていく
 好きだった海のささやきが
 今は心にしみる
 よみがえる午後のやすらぎも、
 白いページの中に
…………
 
 ここもG、G7、Cmaj7、Bm7というセブンス系をうまく使って、美しい旋律が奏でられているわけですが、歌われた情景の内容を見てください。
 
 長い長い坂道
 海のささやき
 午後の安らぎ
 
 おそらく主人公がですね、孤独を噛みしめながら、散歩しているシーンを描いているんでしょうけれども、そこに描かれる風景というのはですね、彼が去っていった後に発見された「風景」なんですね。
 ここで歌われる「坂道の長さ」、「海のささやき」、「午後のやすらぎ」というのは、彼が身近にいたときには気づかなかった、「別れた後に見出された風景」 といってよいと思います。
 つまり、それまでも、この主人公は、同じ風景を何度となく目にしてきたのでしょうけれど、それは彼女の「視覚」には入っていたのかもしれませんが、「意識」の中には入っていなかった。
 
 それが、別れた後に、意識の中に飛び込んできた!
 その「発見」の新鮮さが、ここでは歌われているんですね。 
 で、印象的なのは「白いページの中に」というフレーズです。
 なぜ、突然「白いページ」なのか。
 
白いページ2
 
 これはですねぇ、日常生活の「切断」を意味しています。
 「ページ」という言葉が出てくるわけですから、そこで、彼女が自分の人生を「本」にたとえていることが分かります。
 
 で、本というのは、活字が印字されているのが当たり前なんですね。
 おそらく主人公は、小説やエッセイを普通に読むようにしてですね、何の疑いもなく人生を歩んできたんでしょうね。

 ところが、読み進めていた本が、途中からストンと白いページに変わっている。
 小説なら、その先のストーリーが突然分からなくなってしまうわけですね。
 これは途方に暮れてしまうと思います。
 彼が去っていったことで、自分の人生のゆくえが突然白紙になってしまった…。
 そういう空虚感を表現しているわけですね。
 
 しかしですねぇ、白いページというのは、その先から、自分なりのストーリーを書き込んでもいいという、その可能性をも示唆しているわけでもあります。
 この歌がですね、「別れ」をテーマにしていながらも、どこか爽やかな印象を持っているのは、この「可能性の発見」が救いになっているからなんですね。
 やがて元気になっていく主人公の姿が、聞いている人にも伝わってくるからであります。
 だからこの曲は、メジャーヒットにはならなかったにもかかわらず、今も多くの人に愛されている曲のひとつになっているんですね。
 
 …というわけで、今日は柴田まゆみさんの『白いページの中』を聞いてみました。
 それでは皆さま、また来週。
 お相手は、町田でした。
 
 
J ポップ・クリティーク 5 「千の夜と千の昼」
  
J ポップ・クリティーク 3 「恋の予感」
 
 
 

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白いページの中に への3件のコメント

  1. Dreamin' より:

    言葉は軽快なのに、相変わらずの鋭い考察。
    楽しく拝見させていただきました。
    特に、別れは”分かれ”という意味もあるんだよという主張は、すごく共感できます。
    何かを失い初めて、人はたいせつさを理解したり、悲しんだり、途方に暮れたり、ともかくいろいろなことを考えます。
    良くも悪くも、別れという経験は、何かを知るためのたいせつな機会なんですね。
    う~ん…、楽しいのに、勉強になりました!
    次回も、DJ町田さんのラジオ番組を楽しみにしています。

  2. 町田 より:

    Deamin’さん、ようこそ。
    >「楽しみにしている」などと、若いDreamin’さんから言われるとうれしいですね。選曲も語り口もオヤジ世代の感覚を抜け切れていないと思っているので…。ありがとうございます。
    この歳になると、いろいろな「別れ」を経験します。2年ほど前には、13年付き合った犬とも別れちゃったし…。
     でも、そのつど、後で考えると「何か」を発見しているんですね。
    別れることの意味を考えたとき、「別れ」もまた人生の “潤い” になる可能性もありますね。

  3. マサト より:

    1964年生まれの男です。
    『白いページの中に』は中学生のときに大好きな曲でした。
    曲を聞くと思春期の感覚がよみがえる曲です。
    カセットテープで何回も何回も聞いていました。
    人生で最も好きな曲です。
    日本テレビの「コッキーポップ」のオープニングテーマの『白いページの中に』の
    映像はニコニコ動画でかろうじて視聴できますが、この映像は泣けます。
    当時から悲しい曲だな、別れの曲だな、という感じしか解らず、
    歌詞の意味がどうしても解らずにいました。
    町田さんの考察を伺い、56歳にしてやっと腑に落ちました。
    大変感動いたしました。
    素晴らしい解説、考察本当にありがとうございました。
    改めて柴田まゆみさんにも思いを馳せています。
    このサイトが今後もずっとうWebに残り続けますように。

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