小説・最後の夕焼け

 
 窓の外に壮大な夕景が広がっている。
 残光をきらめかせる太陽と、建ち並ぶビルのネオンが、ちょうどその明るさを競う時間帯だ。
 

  
 だが、まもなく街の明かりが勝つ。
 すでにこのラウンジにも、街の夜景を楽しもうというカップルの姿が空席を埋め始めている。太陽の光など邪魔だ、といわんばかりに。
 
 俺は、その消え行く太陽だ。
 俺が消えた後、お前たちはさんざん街の夜景を賛美すればいい。 
 だが、その前に、この世にはこんなに壮麗な夕焼けがあったのかと驚かせてやる。
 金輪際ないようなすさまじい輝きをお前たちに見せてやる。
 
 俺は、胸ポケットのなかに右手を差込み、用意したリボルバーの銃身に触れて、そのひんやりした工業製品の感触を確かめた。
 
 心を凍らせるような無慈悲な手触りが、指先を通じて脳髄にまで駆け昇ってくる。
 心配するな。
 その銃身は、もう少ししたら、溶鉱炉のように真っ赤に燃え上がるのだ。
 
 歌舞伎町の知り合いのスナックを通じて、売人から手に入れた銃だった。
 形はコルトに似ている。
 だが、東南アジアのどこかで造られた密造品だという。
 だから、実弾20発付きでも安かった。
 「暴発しても知らないぜ」
 スナックのマスターは眠たげな目でそう言った。
 
 こんなことを、このブログに書いていいのだろうか。
 すでに、この記事だけで、私が銃刀法違反を犯していることを告白しているようなものだ。
 しかも、この10分先に行われるであろうことは、おそらく今晩のワイドショーをのきなみ賑わすことになるだ
ろう。
 
 時間が来た。
 すでに会計は済ませてある。
 私は、テーブルの上のギムレットを最後まで飲み干すと、ソファの横に寝かせておいたバッグを引き寄せた。
 
 「待って」
 女が近づいてきた。
 「やっぱりここね。探したわ」
 
 小さな哺乳類のような、落ち着かない愛嬌をたたえた目が、今は猛禽の眼差しに変わっていた。
 「思いとどまってよ。でなければ、私をここで殺して」
 
 「どきなよ。もう決めてしまったことだ」
 「許さない。私、死んでもあなたを止める。あなたを愛しているから」
 
 「そのセリフを、3日前に聞きたかったよ」
 「では、あなたの時計を3日前に巻き戻して」
 
 「時計は捨てたんだ。その時計を拾ったのは、まだお前を知らなかった5年前の俺だ。もうここにはいない」
 「駄目よ! ここから先は通さない」
 
 「や、やめろよ、首が絞まってしまうじゃないか」
 「お願い、目覚めて。目を覚ましなさい!」
 
 「だから、その時計を拾ったのは5年前の……」
 「何いってんの? 目覚ましを自分で止めてしまったの? 起きないと遅刻じゃない。また私が、主人は風邪をひきましたって電話するわけ?」
 
 「え、何時なんだよ?」
 「25分ですよ。ご飯食べている時間はありませんよ」
 (今朝の夢)
 
 

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小説・最後の夕焼け への2件のコメント

  1. Taku. より:

    落語やコントでよく使われる夢落ちというやつですね。安易な落ちのつけ方としてあまり歓迎されない面もありますが、夢落ちもここまで鮮やかにやられるとお見事です。最初は何の記事なのか見当もつきませんでしたが、いや、意表を突かれました!!大変楽しく拝読させて頂きました。

  2. 町田 より:

    >Taku.さん
    見破られましたね。そうなんです、よくある「夢落ち」ですいません。その「歓迎されない夢落ち」に過分なご評価をいただき恐縮です。ま、実際に夢が原型になっているヨタ話なので、ご勘弁ください。
    自分としては、夢の中に出てきた美女ともう少しつき合ってみたかったんですけどね。

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