キャンピングカーは不便を楽しむ乗り物?

 
 昔からときどき仕事上のアドバイスをもらっている先輩がいる。
 怖い人だ。
 相手が誰であろうと、自分の意見と合わない人間に対して容赦しない。
 目上の人に対しても、いつもタメ口。
 気に入らない相手を前にすると、一言もしゃべろうとしない。

 で、タバコの煙をその人間に向かって、フゥーっと吐きつける。
 ま、ケンカも好きな男なんだわ。
 弱いくせして。
 俗世間のアカに染まった私なんぞは、そういう態度が改まらない先輩に対して、いつもヒヤヒヤしてしまうのだが、本人はいたって平気のようだ。
 
 「オレは、人のいない荒野に向かって、メシア(救世主) の到来を叫ぶ預言者だ。オレの意見など聞く人間が一人もいなくても、オレがその登場を予言したメシアが現れれば、その声には、やがて全世界の人が耳を傾けなければならなくなる。
 だから、お前が救世主になれ。そしてオレの声を民に伝えろ」
 
 …と、訳の分からないことを言う。
 私は、“救世主” などという面倒くさい役目はまっぴらゴメンだが、この煙たい預言者の前に出ると、どうも、ネコの前でちぢこまったネズミのような気分になってしまい、何も言い返せなくなる。

 ま、世の中の流れに乗らずに超然と生きている人だ。
 だから私は、密かにその先輩を「K仙人」と呼んでいる。
 そのK仙人から電話があった。

 以下は、そのやりとり。

【仙人】 JRVA(日本RV協会)のシンポジウム手伝ったんだって? ホームページで読んだわ。まだまだあかんな。
【オレ】 ダメですかねぇ…

【仙人】 キャンピングカーは宿代がかからず、どこでも好きな所で泊まれるなんて言い続けてきたから、アホな問題が起こっているんや。
 キャンピングカー業界も、ユーザーも、いつまでもそんなのんきな気分でいると、もう先はないんとちゃう?
【オレ】 え、どういう意味ですか?

仙人】 考えてもみいぃよ。やれ温暖化だの、やれ石油が残り少なくなってきただのというご時世なんだから、建て前でもいいから、「環境保全」でも訴えないかぎり、世間的に通らへん時代だろが。
 そんなとき、「安く旅しよう」なんて言うてみな。
 それなら、クルマをやめて電車や自転車で移動しましょう…となるじゃないか。
 みんなアホやな。自分で自分の首を絞めおって。

【オレ】 じゃ、どうすればいいんですか?
【仙人】 発想の転換が必要なんや。「贅沢」という言葉の意味を変えないといかん。
 今、キャンピングカーで「贅沢」というと、やれインバーター付けて、発電機買って、薄型テレビを付けて…となるだろうが。
 要は、物ばかりかさんでいくというスタイルやな。
 だけど、「エアコンの温度を28度にとどめましょう」なんていう時代になったんやで。
 快楽を追求するためのエネルギー消費を見直そうという風潮がこれから加速してくやろうから、「便利な装備」なんて、やがて売りにならん時代になってくる。
 そのときに「不便を楽しむことこそキャンピングカー旅行の贅沢」という売り方をせんとあかん。
 そして、「それこそがキャンピングカーの贅沢である」 と訴えていかんと、この先商売そのものも難しくなるとちゃう?
 ほんとの金持ちは、不便な生活環境を楽しむことが「お洒落」って感覚を身に付けているものよ。

【オレ】 いやぁ、おっしゃることは分かりますけどね。でも便利なものを増やしていくというのは、人間の文明の性(さが)みたいなものじゃないですか。
 それは正しくないことのなのかもしれないけれど、快適性というものが物質的に保証された社会をそう簡単にくつがえすって、理屈で言うほど単純なものじゃないと思うけどな。

【仙人】 お前アホやな。便利な物ってのは、キリがないんだわ。人間はひとつの快適さに慣れれば、やがてそれにも不満を感じる動物なんだわ。
 そして次から次へと快適さを求める無限地獄に陥るわけよ。
 そんなふうにキャンピングカーを売り続けていくと、どんどん高いものになって、それこそ庶民の高嶺の花になっていくやろ。
 それって、結局マーケットを縮めることになるんとちゃう?

【オレ】 じゃ、どうすればいいんですかね。
【仙人】 だからさっきから言っとるやろ。発想の転換や。つまり「洗脳」や。「不便さを求めて山奥のキャンプ場に行くことこそ贅沢」って売ればいいのや。

【オレ】 そりゃ言葉としてはカッコいいですけど、現実的にはそれじゃなかなか売れませんよ。
 もちろん認めますよ、そういう意見。
 でも、やっぱりコンビニやファミレスが近くにあったり、すぐに立ち寄り温泉に寄れたりする便利さって、否定してはいけないものなんですよ。
 難行・苦行こそキャンピングカーの楽しみっていうのは、どこか倒錯的じゃないですか?

【仙人】 いいよ、今のうちは。でも、あと10年、いや5年のうちにモータリゼーションに対する考え方はガラっと変る。
 便利とか、快適とか、そういうのを求め続けてきた消費文明そのものが、いま見直しを迫られているわけやろ?
 自動車もそうなんよ。
 この前までやっていた「モーターショー」見れば分かるやんか。
 どこのメーカーも、模型のようなエコカーと、即売できるようなハイパワー車の2本立てやったろ? 
 あの意味分かる?
 ガソリンがあるうちは、夢のハイパワー車でがんがん稼ぎ、やがて「ガソリン消費量を見直そう」という世論が強くなってきたら、さっとエコカーに切り替える。
 乗用車メーカーはしたたかなんよ。
 キャンピングカー業界も、今のうちに「私らもエコに関して十分に関心を払っていますよ」という姿勢を見せておかなきゃいかんでしょ。
 ただでさえ図体のでかいクルマなんだから、「あれって、ガソリンがぶ飲みだよね」なんていう世論形成がなされたら、ぜったい不利よ。

【オレ】 いやぁ、そりゃそうですけど…、その「姿勢」ってのが、難しい。
【仙人】 だから、キャンピングカーって、ガソリンを消費して走っているときよりも、泊まっているときに真価を発揮する乗り物なんだという、その特徴をアピールしていけばいいんだよ。

【オレ】 あ、それは私も考えたことがありますけど、…でも詭弁という感じも…
【仙人】 詭弁でも何でもあらへん。それは事実やろ?
 で、キャンピングカーの行く先といえば、人間が共生を図らなければならない「自然」や。
 人間は自然と触れ合った時のバイブレーションを経験してこそ、生き物としての実感を得られるようになっている。
 その自然と人間のバイブレーションを取り持つ役がキャンピングカーや。
 どや? それには誰も反論できんやろうが。
 「グッ、グッ、グッ、グッバイブレーション!」 ビーチボーイズや。

【オレ】 先輩、古いっすね。
【仙人】 古いってこと知っているお前も、古いね(笑)
 …ま、とにかく、コンビニとか立ち寄り湯とか、既成の快適さを求めるだけのキャンペーンを続けていると、10年後のキャンピングカーマーケットは縮小だな。
【オレ】 じゃ、どうすればいいんですか?
【仙人】 何もない状態でも楽しめるという、「物」に頼らないキャンピングカー文化をつくらねばいかんな。

【オレ】 …というと?
【仙人】 なんで旅に出てまでも、電源つないで車内でテレビを見なければいかんのだ?
 ランタンの明かりだけで、じっくりと舌の上に酒を転がすだけでいいじゃないか。
 何もないキャンプ場で退屈するという人もおるが、そういうところに長逗留するには、知性と教養が必要なんだよ。
 瞑想する。本を読む。散歩をする。
 心が豊かになれば、気を紛らわすものがないという嘆きなどととは無縁になるだろうが。
 不便を楽しむってのは、貧乏くさくなれってこととは違うのよ。
 むしろ、そっちの方が、高度に知的な遊びなのよ。
 そいつを「文化」と呼ぶわけね。

【オレ】 そりゃ「仙人様」の発想ですよ。私ら庶民には高尚すぎて…
【仙人】 だから貧しいんだよね。
 想像力の豊かな人間には、道ばたに転がる石を眺めているだけで、何時間にも及ぶドラマを見出すことができるのよ。
 今、キャンプ系メディアが取り上げなければいかんことは、ダッチオーブンの使い方なんかやなくて、「路傍の石」の眺め方なんよ。
 お前のところが出している本も含めて、そういうことを訴えるキャンプ本ってないよね。
 ま、お前は “救世主” なんやから、これからも頑張ってや。

 ガチャン
 いつも電話は唐突に切れる。
 私は、そのたびに宿題を背負わされる。
 
 

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キャンピングカーは不便を楽しむ乗り物? への7件のコメント

  1. Seiji より:

    私も仙人様のご意見に賛成です。
     初めに申し上げておかなくてはなりませんが、私もキャンピングカーを使っています。もとはテントキャンプでしたが、雨の日のうっとうしさ、移動の面倒なこと などから逃れるためにキャンピングカーを購入してしまいました。えらそうなことはいえないのは承知しています。しかし、いつもなんとなく後ろめたいものを感じています。
     某A誌には毎号 読者のアウトドア日記 という記事が出ています。しかし内容はただの観光地めぐり。どこの何がおいしいとか、いい温泉があったとか・・。ようするにアウトドアとは自宅から外に出た、というだけ?
    の旅行記。さらには自分の車がいかに快適か、の宣伝。いやになってしまいます。
     利便性を追求するのは人間の性、 という町田さんの言はその通りです。 しかし本当にそれを肯定しつづけていいのでしょうか。今の温暖化、汚染、食品偽装(偽装する会社も問題ですが、いいもの、おいしいものを求め続ける消費者側にも責任の一端はあるように思います)・・・ほとんどの問題はそれを肯定し続けている結果ではないでしょうか。
     キャンプに行って焚き火もしないで電子レンジで調理、テレビ、ビデオを見る、テレビゲームをやる・・・。
    いったいこの人たちは何をしに来ているのでしょう。キャンプに来た、アウトドアライフをしている、というただの妄想を得るために来ているとしか思えません。子連れならなおさら、このような「キャンプ」や先の「アウトドア」は問題多いと思います。子育てについては長くなるのでやめます。  続く

  2. Seiji より:

    キャンプ場の過剰設備にも同様のことが言えます。100V電源は言うに及ばず、温水シャワーが各区画に装備されているところもあります。きれいにアスファルトで区切って、きれいな芝生を敷き詰め、そのために直火禁止、これで一泊7000円也、などというところもこれからもっと増えそうですね。やめてくれー。ただの広場でトイレと水道設備があればいいと思います。ごみは当然持ち帰りです。キャンプ場としては儲からないでしょうけど。
    キャンピングカーのマナー問題が浮上していますが、結局、人間の利便性追求を容認する限り、これを解決することはできないのではないでしょうか。
    完全電化を謳う車キャンピングカーもあります。発電機を回して、電子レンジ、電磁調理器、エアコン、温水シャワーを使う。重い車体で走行中は燃料を浪費し、停車中まで発電機を回して排気ガスで訪問先の空気をよごす。
    車内だけ快適に過ごせてご満悦。という図はちょっと納得いかない気がします。すべてのキャンピングカーが完全電化になったら・・・。みんなやっているのだから発電機を回そう、ということになります。道の駅でたくさんのキャンピングカーが発電機を回して排気ガスを、騒音を撒き散らすことになるでしょう。即、出入り禁止です。キャンプ場でも同じこと。たくさんになると問題になる製品を作ってはいけないのではないでしょうか。それともそんなに売れないから作っている?!
     仙人様のおっしゃるようなキャンピングカーライフを多くの人が実践するようになれば、キャンピングカーを取り巻く環境も変わると思います。人間の性が相手のことですから容易ではありませんが、キャンピングカーユーザーからこのような社会に警鐘を鳴らすことはできないでしょうか。「エコ」の追求よりも、人間の「エゴ」の追放を目指したいですね。このブログにも登場した九州の池田さんは次のようにおっしゃっています「21世紀のキーワードは「ナチュラル」。車はハイテクのミニハウスではないと考えます。すばらしいロケーションの中でゆったりくつろげる自然の中のベース・・・」
    仙人様はもう一人の町田さんでしょうか・・・。メシアになっていただきたいです。
    長文で失礼しました。

  3. 町田 より:

    >Seiji様
    とても有意義で、読み応えのあるコメントありがとうございます。このコメント自体が、すでにエッセイか評論のような印象を持ちました。とても拝聴に値するご意見だと思いました。
    おっしゃるように、「利便性」だけを追求する姿勢というのは、キャンピングカーシーンだけでなく、私たちの日常生活すべてにおいて強まっているわけで、それが今や社会問題や環境問題の遠因になっているわけですね。
    利便性というのは、「楽」をしたいという気持ちからくるものですから、結局、人間の頭も「楽」になってしまうんでしょうね。
    テレビを見ていても、ネタで笑わせるものよりも、芸人のしぐさや衣装で笑わせるものばかり。ゲーム機も、身体操作が中心となる擬似スポーツっぽいものばかり。
    …世の中すべて、「頭が楽になる」傾向にどんどん傾いているような気がします。
    せめて、キャンピングカーを楽しんだり、キャンプを味わったりする人だけは、「頭が楽」であることから抜け出してほしいという気持ちがないわけではありません。
    Seijiさんのご意見は、キャンピングカーライフを楽しもうとされる方々に、きっと「頭の刺激剤」として機能することになるでしょう。
    K仙人も、Seijiさんのコメントを読まれたらきっと「わが意を得たり」という気持ちになると思います。このことを本人にも連絡しておきます。
    コメントありがとうございました。

  4. 刀猫 より:

    キャンピングカー・・・キャンプをする為にに作られた自動車、キャンプは自然の中で不自由を楽しむもの、だから余計なものはいらない。
    旅車・・・宿の予約や費用が掛からない自動車、今のご時勢、シンプルでエコな車にしないとイケナイ・・・
    それならば、軽ワンボックス等でのキャンプや車中泊が良い。これが答えになってしまいませんか?
    これなら、道の駅で実践されている方が大勢いますね、テーブル出して食事、トイレで食器洗い、洗面歯磨き・・・
    キャンピングカーや旅車など、ステレオタイプのイメージの使い方より、多くの方々は十人十色の使い方をしています。
    しかし、マナー向上の啓蒙活動は急務だとは思いますけど。

  5. 町田 より:

    >刀猫さん
    こんばんわ。おっしゃるように>「シンプルなエコ車でいいというのであれば、ただの軽ワンボックスカーでいい」ということになり、それじゃ旅車の意味もなくなってしまいますものね。ご意見、そのとおりだと思います。
    ただ、K仙人が 「物に頼らないクルマ」という言葉で言わんとしたことは、たぶん使う人の「心」のことを言いたかったのだろうと私は解釈しています。おそらく彼は、「旅のロマン」のようなものを強調したかったのでしょう。
    それはそれで、私にもよく分かる部分なのです。
    しかし、まぁ、本当に「十人十色」ですねぇ!
    刀猫さんが言われるように、「ステレオタイプ化した使い方」なんて、ありそうで、そんなものはないのかもしれません。
     
    また、日本のキャンピングカーは本当に種類が豊富で、どのような趣味を持った顧客にも、必ずその使用目的に近い車種が選べるようになっています。それは素晴らしいことだな、と思います。
    後はおっしゃるように、マナー向上の啓蒙活動ですね。

  6. 小西 より:

    今回の論争、キャンピングカーユーザーとして最高に面白くかつ有意義です。「不便を楽しむこそキャンピグカー旅行の贅沢」との考えがありますが、私の場合は、まったく逆で「便利さを・・・」と考えています。
    どこでもTVで最新のニュースを聞き、DVDで映画を鑑賞そして電子レンジで調理し文化生活を楽しむ。「自宅での便利さをどこにでも」これがキャンピンガカーでの「くるま旅くらし」の醍醐味です。
     
    そして、その「くらし」を可能にできるのが太陽光発電装置だと考えています。晴天であれば走行での充電より太陽光が方が勝っていることを実証しました。自己完結型の生活を目指すキャンピングカーには、この装置は最適ではないでしょうか。電気を管理すれば、この文化生活を維持しつつ長期での旅行は十分可能です。
    (発電機を搭載し、騒音を撒き散らしているキャンピングカーは最近見かけなくなっていると思いますが) まさにキャンピングカーの用途は、「十人十色」です。どのように活用するかは選択の問題です。都会あるいは地方での旅でも、キャンプでもキャンプをしなくても、この自由を選択できるのがキャンピングカーの最大の利点でもあります。この自由と選択のために最大の装備を目指し、そして創造と知恵で「くるま旅くらし」をする。
    時には、非日常的な冒険に挑む、キャンピングカーは、素晴らしいそのような手段になっているのではないでしょうか。 

  7. 町田 より:

    >小西さん
    せっかくのコメントをいただきながら、旅に出ていたもので、画面のチェックを怠っておりました。お返事が遅くなり失礼いたしました。
    いつも有意義なご意見をありがとうございます。
    ソーラー発電に関しては、最近は自分も関心をもっています。
    発電量はささやかながら、バッテリーの自然放電を防ぐには十分すぎるエネルギーチャージができるようですから、自分のようなずぼらな人間には強い武器になりそうです。
    旅先では山本馬骨さん夫妻ともゆっくり話す機会がありました。小西さんのお話も出ました。ご近所に 「気の合う友人ができた」ととても喜ばれていらっしゃいました。
    一度「くるま旅」もご一緒させていただければ幸いです。

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