ローマの休日

《昔の映画の現代的鑑賞法 2》
「ローマの休日」
 
 『 ローマの休日 』 といえば、往年の映画ファンにとっては、洒落た恋愛映画の代名詞みたいなもの。
 たぶん、私ぐらいの年齢の人間は、これを映画館で見なかったとしても、その後何度もTVで放映されたときに、一度は観ているはずだ。
 だが、こいつも、私は今回はじめてDVDで観た。
 
ロマ休DVD

 ピュアな恋愛ドラマだと思っていたが、第二次大戦後のアメリカとヨーロッパの関係が非常によく分かる “歴史ドラマ” になっている。
 これを観ると、ヨーロッパ人に対するアメリカ人のコンプレックスと同時に、アメリカ人に対するヨーロッパ人の屈折したエリート意識などが、手にとるように分かる。
 今なら、こういう映画はつくれまい。
 ストーリーは単純。
 オードリー・ヘップバーン扮するヨーロッパの小国の王女と、グレゴリー・ペック扮するアメリカ人新聞記者が、ともに自分の身分を隠して、ローマで1日だけの休日を楽しむという話だ。

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マ休2

 舞台となるローマは、ご存知のように、第二次大戦でアメリカに負けたイタリアの首都。
 戦勝国と敗戦国の力関係を反映してか、この時代、イタリア在住のアメリカ人が 「特権階級」 であったことが分かる。
 たとえば、グレゴリー・ペックが演じるアメリカ人記者が、交通違反をしても、自分の身分を明かしただけで放免になってしまう。
 
 しかし、アメリカ人は、戦いに勝ってもけっして驕 (おご) り高ぶってはいない。
 …と、もちろんハリウッド映画なわけだから、そう強調されている。
 グレゴリー・ペックが演じる記者は、自分の仕事に自信を持ち、ユーモアのセンスを発揮し、金儲けの企画も上手だ。
 そして、見ず知らずの女性を部屋に泊めても、まったく野卑な下心を持たない紳士として描かれる。
 彼の役割自体が、新しく世界のリーダーとなったアメリカを体現しているといえるだろう。

 一方、彼が出会ったヨーロッパの王女は、貨幣価値さえ分からないため、宮殿を出てしまえば、日常生活すらまっとうできない。
 そのため、世間知に富んだアメリカ人記者の保護がなければ、満足に都市観光もできない。
 
 平民の現実主義を貫くアメリカ文化と、庶民感覚に乏しいヨーロッパ貴族文化の寓意が、そこに成立している。
 れっきとしたクラス (階層) というものが存在するヨーロッパ社会の閉塞性と、階層社会のないアメリカの自由というものが、そこで対比されているといってもいい。

 にもかかわらず…、というところが、面白い。
 このヨーロッパ王家の姫君は、アメリカ人記者も舌を巻くような教養を持ち、美しく洗練された挙動を身に付けている。
 幼女のようなナイーブさと、老熟した哲学者のような英知。
 そして、一挙手一投足が、バレリーナの舞いのように鍛え上げられた振る舞い。
 
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マ休バーン
 
 そういう王女の描写には、一夕一朝には形成しえないヨーロッパ貴族文化の厚みが表現されている。
 同じ新興勢力であったファシズムには勝てたアメリカだが、2000年以上の蓄積を誇るヨーロッパ文化の前には、どうも気後れしてしまう。
 その 「苦笑い」 の感覚が、この映画全体に、ある種のユーモアを引き寄せている。

 映画は、俗世間では無敵のアメリカ人記者が、結局は、ヨーロッパ人王女の魅力にほだされて、せっかく手に入れた特ダネを放棄するという結末を迎える。
 アメリカの持っているパワーと金だけでは、ヨーロッパの伝統社会からは対等に扱ってもらえないことを自覚した当時のアメリカ人の、ヨーロッパに対する憬れと屈折を描いたような映画だ。
 
 この映画が撮られてから50余年。
 アメリカの軍事力と経済力は、人類史上最強の規模を誇るようになった。
 もうグレゴリー・ペックの扮したアメリカ人記者のように、ヨーロッパ文化にコンプレックスを抱くアメリカ人は、いないかもしれない。
 だから、このような物語がアメリカから生まれることは、もうない。

 しかし、この映画は、そんな面倒なことを考えずに楽しめる作品であることは確か。
 ここに描かれる恋愛は、悲恋ではあるがカタルシスがあり、恋愛のポジティブな面だけを美しく描き切ったという意味で、誰もが認める名作であることは間違いない。
  

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ローマの休日 への2件のコメント

  1. TJ より:

    現代だから、この50年以上前の時代背景を理解できますね。今よりアメリカとイタリア(ヨーロッパ)の文化
    の違いが現れていましたね。
    何年か前にリメイクされたNew Roman Holidayをアメリカのテレビでやっていたのを見ましたが、現代アレンジ
    なので軽く流せる内容でした。
    ローマの休日より10年以上後のHOW TO STEAL A MILLION 邦題『おしゃれ泥棒』だと、ラブ・コメディーなん
    ですけどね! 

  2. 町田 より:

    >TJさん
    おっしゃるとおり、イタリア(ヨーロッパ)とアメリカの文化の違いというものが、よく現れていた映画でした
    ね。
    ヨーロッパの姫君と、アメリカ人記者の対比というのは、もっとこじつけていけば、イタ車とアメ車の違いなど
    にも、応用できるものなんでしょうか。
    優雅で洗練されているけれど、日常的な扱いがシビアなイタ車と、シンプルだけどパワフルで使いやすいアメ車
    とか。
    ちょっと違うかな?

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