怖い話 「PAでの怪異現象」

 
 キャンピングカーで旅するときは、基本的にキャンプ場に泊まるように心がけている。あるいは、JRVAさんが勧めている「湯YOUパーク」なども使う。
 深夜に旅発つ場合は、高速のPAなどで車中泊する場合もあるが、時間に余裕がある場合は、お金を払っても、管理人と連絡が取れるような場所に泊まりたいと思う。
 その方が、怖い思いをしなくてすむからだ。
 
 何が怖いのか。
 週末の夜に、こぞって爆音をとどろかせながら集まってくる暴走族のことを言っているのではない。
 高速道路の、とあるPAで車中泊したとき、なんとも不可解な現象を体験したからだ。
 
 さる地方の、それこそ夜がふけてくると、対向車線のヘッドライトひとつ見ることのない寂しい有料道路を、一人で走っていたときのことである。
 自分のクルマのヘッドライトだけが頼りになるような道を、何時間も走っていると、だんだん現実感覚が乏しくなってきて、夢の世界の道路を走っているような気分になる。
 
 そのときも、自分の魂が少しずつ遊離していくような感覚に襲われた。
 「前にも、こんな気分になったことがあったなぁ…」
 そう思ったとき、それに先立つ2年ほど前の深夜にも、カミさんを伴ってこの道を走っていたことを思い出した。
 そのとき、助手席でうつらうつらと船を漕いでいたカミさんが、突然目を覚まし、
 「あなた、気をつけて!」と叫んだのだ。
 「どうして?」と聞き返すと、
 「頭の中で<蛍の光>と<仰げば尊し>が鳴り響いている」
 という。
 
 夢を見ていたらしい。
 どちらも、のどかで美しい曲だ。
 しかし、二つとも、人と人が別れるときに流れる曲である。
 耳なじんだはずのメロディが、鎮魂歌のように思えてきて、不意に鳥肌が立った。
 想像力がたくましくなってくると、山影や月の明かりですら、“あの世”めいて見えてくる。
 「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」の逆で、枯れ尾花が、幽霊に感じられてくる。
 
 結局、そのときは何も起こらず、やがて忘れてしまった。
 しかし、いま一人で走っている場所こそ、2年前に怪しげな気分に襲われた場所であることに気がついた。
 できれば、そのまま走り抜けたかったが、尿意も催してきたし、疲れも出てきた。
 家を出てから16時間目。
 そろそろ仮眠を取らなければ、身体が持たない。
 PAかSAの表示板が見えてきたら、そこで一眠りすることに決めた。
 
 やがて、暗闇の中から、PAの表示板が浮かび上がった。
 「荷おろし峠」
 
 のどかな民話風の名前なのに、気分が怪談モードにシフトしていると、その民話風の名前が、逆に不吉なイメージを引き連れてくる。
 しかし、もう待避線側に進路を取っているので、引き返せない。
 案の定、クルマを減速させていくに従って、春だというのに、晩秋のような冷気が襲ってきた。
 標高が高いせいだろうと、自分に言い聞かせた。
 
 薄暗い外灯が立っているだけの、なんとも殺風景な駐車場だった。
 建物とおぼしきものはトイレ棟だけ。周囲は鬱蒼とした杉木立である。
 神社の境内にでも迷い込んだ感じだ。

 先客がいた。
 1980年代末期のフェアレディZ。
 色は赤、というか朱色。
 ハローウィンのかぼちゃのような顔をした3代目あたりのZだ。
 乗客は2人。
 男女のようだ。
 クルマの後方が7:3に向いた角度なので、乗員の顔までは分からない。
 ただ、そのまま見過ごしてしまうには、どことなく不自然な感じがした。
 夜の0時を回った時間帯だというのに、仮眠している様子ではない。
 かといって、こちらが期待する(?)ようなイチャイチャもやっていない。
 話し合っている雰囲気でもない。
 
 2人とも人形のように背筋を伸ばしたまま、じっと前方を見つめているのである。
 人間の輪郭がくっきりしていたため、さすがに幽霊には見えなかったが、はっきり言って、不気味な連中だと思った。
 
 トイレに入った私は、何度か後ろを振り向きながら放尿し、クルマに戻ってからは、しっかりと鍵をかけ、バンクの上に這い登って横になった。
 
 深夜の2時ごろ、ふと目を覚ましたときには、フェアレディZは立ち去っていた。
 それをしっかり確認してから、また目をつぶった。
 次に目を覚ましたのは3時過ぎだったと思う。
 バンクの小窓から何気なく外を見ると、驚いたことに、立ち去ったはずのZが、また戻っている。
 クルマの色も同じ。
 乗っている男女も同じ。
 しかも、さっきと同じ場所に、動いた気配もないような停まり方で、居座っている。
 なんとも奇妙な気分だった。
 
 PAに戻ってくるには、高速道路を逆走してこなければならない。
 しかし、深夜で交通量がほとんどないとはいえ、いくらなんでも、そんな非常識なことは考えられない。
 では、先のインターでいったん降りてからUターンし、またこのPAに戻ってきたのだろうか。
 何のために?
 まぁ、大事なものを忘れたために、戻ってきたとも考えられる。
 あるいは、偶然、似たようなクルマが、立て続けに来たのか…。
 そのときは、それ以上考えることもなく、眠りについた。
 
 明け方の4時過ぎ、今度は尿意で目が覚めた。
 私は、急いで窓のカーテンを開けて駐車場を見回した。
 いったん戻ったZの姿は、すでになかった。
 
 しかし、そのクルマの怪しげな行動を見て、疑り深くなっていた私は、今度はリヤドアをそおっと開けて、自分のクルマの後ろ側に回り込んでいないか確かめた。
 
 いない。
 慎重にステップを踏みしめて、外に出た。
 人気のない駐車場は、沈黙の底に沈んでいた。
 静寂が目に見えぬ「重み」となって、覆いかぶさってくる。
 さっきのZは、どこから来たのだろう…
 まさか空から降ってきたわけでもあるまいし…と見上げた空は、自然界のものとは思えないほど、濃い紫色に染まっていた。
 夜でもなければ朝でもない、不思議な時間が流れていた。


 
 しかも、しんしんと冷気が降りてきている。
 冬の冷気とは違う。
 体調を崩したときに感じる「悪寒」のような寒さだ。
 「冷気」=「霊気」
 ふと、そんな連想が浮かんだ。
 私は、クルマの中に戻って、バンクに潜り込み、頭からシュラフを被った。
 
 ふと、妙な予感が働いた。
 念のために、バンクの小窓から外を覗いた。
 このとき見た光景は、一生忘れられない。
 またしても、どこからともなく、Zが戻っているではないか!
 
 ホラー映画のようなことが本当に起こることを、初めて体験した。
 私が気づいたことを知ったのか、車内の2人が、同時に首をくるりと回した。
 私は、急いでバンクから運転席に飛び移り、エンジンキーをひねって、裸足のままアクセルを踏み込んだ。
 
 この話を、その地方で取材することになっていたキャンピングカービルダーさんに話したところ、
 「それは有名な話ですよ」と、言われた。
 もう15~16年ぐらい前、そこでフェアレディZに乗ったまま、排ガスを引き込んで心中を図った男女がいたのだとか。
 「5日とか15日、25日の晩に出ることが多い」という話になり、五・十日なので、「なんだか営業車みたいだね」
 と、そのときは笑い話になって終わった。
 
 このことを、帰ってからみんなに話しても、誰も信用してくれない。
 「寝ぼけて夢でも見たのだろう」
 などというのはいい方。
 カミさんなどは、あっけらかんと笑って、
 「へたな作り話」
 と一刀両断に切り捨てる。
 「へたな…」がついた分だけ、よけい傷つく。
 
 確かに、同じクルマを3度見たという「3度目」は、多少話を面白くするための創作である。
 しかし、悪気から出たものではない。
 つい舌が勝手に回ってしまっただけである。持ち前のサービス精神から出た勇み足というべきかもしれない。
 もちろん、取材先のキャンピングカービルダーさんが「有名な話ですよ」と言ったというのもウソ。
 
 しかし、そのほんのわずかな技巧を加味したばかりに、私の不思議な体験は、すべて作り話に受け取られ、カミさんから、嘘つき呼ばわりされることになってしまった。
 今度、同じ場所で、フェアレディZに乗った男女を見つけたときは、
 「お前たち、2回までは本当にこの場所に戻ってきたことを証言してくれ」
 と、お願いするつもりでいる。
  
 
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怖い話 「PAでの怪異現象」 への6件のコメント

  1. Tora より:

    町田さま。初めまして。
    ちょっと怖かったですがドキドキして読ませていただきました。終盤の作り話のところが何だぁ~っていう気持ちと嘘で良かったとホッとした気持ちです(笑)
    でも話を付け足したとは言え本当の話だと思うとやっぱりゾッとしますね(^^;
    これからもこんなお話に期待しています!

  2. おじさん より:

    暑い夜には ピッタリの怖い話ですね
    最後に懺悔のサービス付きで最高でした
    私も山の中の別荘に一人で行くことがありますが、夜中に外で音がすると 人が居ないのになあと思い怖くて寝れない時があります
    野ネズミかも知れませんが

  3. 予備軍 より:

     酷暑が吹っ飛ぶような怖い話に久しぶりにゾッと感を強く感じました。PAでの怪異現象が真実か否か判断がつかないような秀作だと思っております。
     キャンピングカーの購入で家内の説得が順調に進みもう一歩でOKが出そうな今日この頃、家内には絶対見せたく、また聞かせたくない話です(笑)
     しかし、私自身もこれに近いような体験をしたことが3年ほど前にあります。クワバラ~クワバラ 
    ・・・世の中理解し難い事は確かにあります。

  4. 町田 より:

    >Toraさん、初めまして。
    ちょいと旅行に行っておりましたので、コメントのお返事が遅くなり、申し訳ございませんでした。
    そうなんです。終盤の部分が創作で、ちょいとウソっぽい話になってしまいましたね。
    でも、まぁ、けっこう怖がりな性格なので、こういうハッキリしたものでなくても、不気味な体験ってのは結構あります。
    それはまた後日…。

  5. 町田 より:

    >予備軍さん
    なるほど。こういう話は、確かに奥様に聞かせてはまずいのかもしれませんね (笑)。
    でも、あまり人気のないPAなどに、実際に泊まっているキャンピングカーはいないようです。
    私も、以降、やむを得ずこういう場所に独りで泊まるような場合は、カーテンを全部閉めて、なるべく外を見ないようにして、酒を飲んですぐ眠るようになりました。

  6. 町田 より:

    >おじさん様
    山の中に独りでいると、想像力がたくましくなるせいか、ちょっとした異変が、ものすごく恐ろしい現象に思えてくることって、確かにありますね。
    私も、昔、山の中で独りでキャンピングカーで泊まっていたとき、周囲を歩き回る足音がとても恐ろしく感じられたことがありました。
    そのとき、工具として携帯していたスパナを握りしめて、そおっと外の様子を確かめてみました。
    周囲を歩き回っていたのは、子ギツネだったんですね。
    目と目が合って、向こうが、かわいらしい顔でキョトンとしていたのを見て、とても平和な気持ちになったものでした。
    暗闇の中にいるときに、恐ろしく感じられるような場所というのは、朝の光が満ちたときは、とても美しい場所であることが多いようです。
    「幽霊」 というのは、人間の心の中に棲んでいるだけなのかもしれません。

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