人生に触れる商売(菅沼公保さんの話)

業界面白人間 1

菅沼公保さん 菅沼自動車=ドリームアイランド長野

【町田】 菅沼さんの展示場には、いつもキャンプを楽しむために来られるお客さんが集合しているとか?
【菅沼】 “いつも” じゃないよ (笑)。連休とか、お盆のときに人が集まってくるだけですけどね。
【町田】 多いときは何組ぐらい来られるんですか?
【菅沼】 あちらこちらから10数台、集まったときがありましたね。

【町田】 人数にしたら大変でしょう! 近所から 「うるさい」 などと苦情が出たりしたことはないんですか?
【菅沼】 そういうときもありましたね。だから 9時過ぎたら、子供たちは外で遊ばせないように注意したり、10時を過ぎたら、「クルマの中でくつろいでください」 とは言っているんですけどね。
 都会の人って、深夜になっても元気でさ (笑) 。子供たちも目がランランしているでしょ。
 それを田舎でやられると、ちょっと困ることがあるわけ。田舎は、みんな寝るのが早いのよ。

【町田】 ダンプのために寄ったり、給水で寄るようなお客さんもいるんですか?
【菅沼】 そういう方もいらっしゃるけど、ダンプの頻度は高くないかな。
 ウチに来るお客さんは、家の敷地内に駐車スペースを持っている人が多いのか、ダンプも給水も自宅内で処理しているみたいですね。
 だけど、必ずウチに寄って、それを済ませていく人も少数いるけどね。

【町田】 電源が欲しいという人は?
【菅沼】 ACを接続させてあげる。
【町田】 エアコンは回る?
【菅沼】 いや、エアコンは必要ないんですよ、ウチは…。夏でも涼しいから。
 それでもエアコンを回したいという人には、諦めてもらってますね。民家が近いから、発電機も遠慮してもらっている。

《 マナー違反のユーザーもいるよ 》

【町田】 いま道の駅とか、高速道路のSA・PAで、マナー違反のキャンピングカーが問題になっているけれど、菅沼さんは、そういう話、聞いたことあります?
【菅沼】 自分で、そういうのを目撃することあるもの。
 道の駅などで、たまに夜とか朝とか、ちょっと見苦しいなぁ…と思える場面に遭遇することはありますね。
 たとえば、排水などを隅にジャージャー流したり、トイレの手前の水道を使って、カセットやポータブルトイレを洗ったりしている爺ちゃんがいたりするからね。
 知らない人が見ると、「何だろ?」 で済むかもしれないけれど、こっちは何をしているか分かるから、「おいおい、それはないだろう!」 と思っちゃうよね。

【町田】 道の駅なんかで、騒いでいる人たちを見ることは?
【菅沼】 あるある。言葉は悪いけれど、「暴走族」 の延長のように見える人たちがいることは事実ですね。
 自分たち1組だけだったら、おとなしいのかもしれないけれど、何台も集まって、お酒なんかが入ってくると、みんなハメを外しちゃうんでしょうね。
 そういう光景を見ると、キャンピングカーを売っているこっちも恥かしくなっちゃうよね。
【町田】 「キャンピングカーお断り」 という駐車場も出てきましたね。マスコミでも、そういう傾向に警鐘を鳴らす記事が登場してくるようになったとも…
【菅沼】 やっぱり、僕なんかがこの仕事を始めた頃とは、少し違った目的を持つ人たちが増えてきたのは、事実かもしれない。
 オフ会で飲むためだけに、キャンピングカーを買ったという人もいるけれど、でもそれって、「飲み屋」 を郊外に移動させただけじゃない?
 キャンピングカーの目的って、それだけじゃないと思うけどな。

【町田】 ユーザーは、どんなふうにキャンピングカーを使えばいいと思いますか?
【菅沼】 う~ん…。それは、そのユーザーの家族構成や年齢にもよりますよね。
 僕は、お子様の小さなファミリーと、シニアの方は、そんなに問題が残るようなキャンピングカーの使い方はしていないと思ってるの。
 子供中心の場合は、安全を考えてキャンプ場に行くことも多いだろうし、寝る時間も早いだろうし…。
 またシニアも、早寝早起き型の生活になっているだろうから、道の駅などで夜遅くまで騒いだりしないでしょ。
【町田】 問題が多いのは?
【菅沼】 僕が見るかぎり、子供が手を離れたぐらいの中年グループ。子供が部活などで忙しくなってキャンプに付いて来なくなった、…ぐらいの世代ですね。
 なにしろ、体力が有り余っているからお酒も強い。子供がいないという解放感もあって、そのお酒が進む(笑)。
 オフ会の集合場所にした道の駅なんかで、こういう夫婦のクルマが4~5台集まっちゃうと、ヤバイ方向に発展する可能性があるよね。

【町田】 ただ、同じ志向を持ったユーザー同士が集まるというのは、情報交換としては大切なことでしょ?
【菅沼】 それは、道の駅でやらなくてもいいんじゃないかなぁ。
 第一ね、今のユーザーさんは、情報に対する強迫観念にとらわれ過ぎている!
 そりゃ安全に関する基礎知識は持ってもらわないと困るし、ちょっとしたトラブルに対応するための必要最小限の知識は必要なんだけど、あまりにも余分な知識を持ちすぎているように思うんですよ。
 そのために、たとえばバッテリーのインジケーターがいつも目一杯でないと落ち着かないとか、排水タンクが満タンに近くなると、そわそわしちゃうとか。知識があるために余分な心配をして、せっかくの旅を楽しんでいない方が多いんじゃないかと思う。

《 トラブルを恐れるな 》

【町田】 なるほど。トラブルを恐れすぎるために、みんな窮屈な思いをしているというわけですね?
【菅沼】 そう! なんていうか…、トラブルの対応法ってさ、体で覚えなければ身につかないようなところもあるじゃない?
 で、一回トラブルを経験することによって、別のトラブルを予知する能力も身につくわけ。
 とことん完璧な状態を維持しようと思っていると、かえって本当のトラブルが起きた場合、自分で解決する力が出てこないんじゃないかと、逆に心配になっちゃいますね。
【町田】 そうですね。私なんかも、不思議と、かえってトラブルに見舞われた旅の方が印象に残ってますものね。
 後になって、「よくあのとき切り抜けたなぁ…」 なんて思い出しながら酒を飲んでいる方が、酒がうまい。

【菅沼】 そうでしょお! みんなトラブルを恐れすぎ。
 安全に関わるトラブルは、絶対に未然に防がなければならないけれど、それ以外は、極端な話、クルマが動かなくなったら、置く場所を見つけて、電車で帰ってくればいいんですよ。
 そんなことができる国って、日本だけですよ。こんなに、旅する環境に恵まれた国って、他にはなかなかないと思う。
 公共交通機関も発達しているし、修理屋さんもあちこちにある。
 山奥でないかぎり、コンビニを見つけるのも難しくない。
 温泉はどこにでもあるし、キャンプ場の数も多い。
 こんなにキャンピングカー旅行に適した国って、そうないんだから。
【町田】 ほんとにその通りですね。

【菅沼】 でも、旅行中にトラブルが発生すると、「明日の仕事に支障が出る」 と訴える人がけっこういるんですよ。
 僕は、「命があっただけいいじゃない」 って思うんですけどね。
 明日の仕事に間に合わないと、将来の保証がすべてなくなるわけ?
 そういう分刻み、秒刻みでものごとを考える習慣から逃れないかぎり、僕はキャンピングカーに乗っても「癒し」 にならないと思うんですよ。
 「明日は月曜日の出勤日だけど、今晩はこの山奥で寝ちゃおうか」っていう、いい加減さ、無責任さも、時には必要だと思うんですけどね。

《 人の 「人生」 に触れる仕事 》

【町田】 キャンピングカーには、そういうふうに、人間の気持ちを切り替えてくれる力があるわけですね。
【菅沼】 うん。こういうことがあったの。
 旦那さんがガンにかかって、もうあまり長く生きられないっていうご夫婦が来られたの。旦那さんは、70過ぎの方でしたけどね。
 で、お医者さんにもクルマの運転を止められて、親戚全員が反対だったんだけれども、最後にキャンピングカーで旅したいというわけね。

【町田】 で、クルマを売った?
【菅沼】 うん。何かあったらすぐ電話くださいね、っていうことをこっちから条件にして。
 その旦那さんは、酸素吸入をしながら運転されるのよ。それで北海道へ行ったり、能登に行かれたり。
 帰ってくると、ウチの展示場に泊まってしばらく休まれてね。それから、今度は九州に行ったり。
 で、帰ってくるたびに、顔が生き生きと輝いているんですね。どんどん元気になっていくように見えるのよ。
 旅の話を聞いても、夫婦で助けあってね。ホント、見ているだけでほほ笑ましくなるカップルだったなぁ。
【町田】 ああ、いい話ですねぇ。
【菅沼】 でもその人は、自分が運転するのは何年の何月までと、自分で期限を定めていたから、期限が来たときには、クルマを手放されたけれど、僕、確実にその方の寿命は延びたと信じている。

【町田】 長い間、こういうご商売をされていると、いろいろお客さんと接する機会があったでしょ。
【菅沼】 そう。キャンピングカーを売っていると、どこかでお客様の 「人生」 に触れる場合が出てきますね。
 それは、乗用車のセールスでは、なかなか経験できないことじゃないかな。
 夫婦でケンカが始まっちゃうこともあるしさ (笑) 。
 旦那さんは欲しい。奥さんは 「キャンピングカーなんて要らない」 。
【町田】 よくある話ですね。
【菅沼】 でも、ケンカする夫婦ぐらいの方が、一度買うと、使用頻度が高いね。買う前に想像していたものと、実際に使ったときの印象が違うんでしょうね。
 ほら、クルマの中に、奥さんのいる場所が必ずできるじゃない? 今までなかったような会話も生まれるんだろうね。
 「人生観が変った」 という奥さんもいますよ。
【町田】 いやぁ、ホントに人間の 「生きざま」 に関わる乗り物ですね、キャンピングカーって。
【菅沼】 切ない話もあるけどね。年配のお客様になると、「あとハンドルを握れる時間は、少ししかないけれど」 なんていって、買われる方もいるんですよ。
 … 今日納めたクルマが、きっとこの人の 「最後の自動車」 になるんだろうな、と思いながら、納車から帰ってくることもありますよ。
【町田】 けっこうキツイ話ですね。でも 「最後はキャンピングカー」 となるわけか…。

【菅沼】 さっきの話とは別なんだけれど、やっぱりガンを抱えた旦那さんと奥さんの話でね。
 旦那さんは、自分は治ると信じているから、納車されたキャンピングカーで遊びに行くのを楽しみにしているの。
 しかし、奥さんは真実を知っているわけ。
 要するに、旦那さんを喜ばせるための、奥さんからの 「最後のプレゼント」 なんですね。
 帰りぎわに、奥さんは 「ありがとうございました」 と、こっそり涙するんだけど、そういわれてもねぇ…。
 うれしいような、悲しいような複雑な気持ちになって、返す言葉も浮かんでこないですよね。
【町田】 なるほど。キャンピングカーのセールスって、人間の喜びや辛さにも接しなければならない、奥行きのある仕事なんですね。
 難しいだろうけれど、やりがいもあるんだろうな。
 
 

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人生に触れる商売(菅沼公保さんの話) への2件のコメント

  1. Taku. より:

    私の知り合いで、奥様が障害を抱えられて、車椅子生活を余儀なくされている旦那さんがいらっしゃいます。
    お2人ともキャンプが大好きなのですが、バリアフリーのキャンプ場もまだ少なく、場所探しで結構苦労されているという話も聞きました。やはり、これからはキャンピングカーが必要かも、とその方はいつも話していらっしゃいます。キャンピングカーには、障害を抱えている家族を助けるという機能があります。この記事に登場するガンを抱えたご夫婦の話には感激しました。この記事の内容を、今度知り合いのご夫婦にも話しておきます。

  2. 町田 より:

    キャンピングカーが、障害を抱えている家族をサポートしているという話は、あちらこちらから聞きます。
    顧客のオーダーに応じて、仕様変更ができるところが、キャンピングカーの良さですから、今後はそういう方々が自由に戸外に出て行けるようなクルマが、もっと出てくるかもしれませんね。
    昔、アイシィー・トレックスさんが、車椅子で生活しているオーナーさんでも運転できるような、特別仕様のB.C.ヴァーノンを開発されたという例もありました。
    キャンピングカーの可能性は、そういうところでも広がっていきそうですね。

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