ニセ台本作家

 
 私には、虚言癖がある。
 ウソ八百が得意なのだ。
 
 もっとも、酔っていないかぎりは、そんなことはない。
 普段は、冗談一ついえない生真面目な性格を、自分でも持て余している。
 ところが、なじみのスナックなどに行き、たまたまそこの常連客などと話していると、もう口を開くごとに、ボロボロボロボロ … ウソの大盛り、テンコ盛り。
 
 この前は、フリーのシナリオライターになりすまし、タケシやさんまのトーク番組を仕切っているテレビ業界人のふりをした。
 ちょうど学生時代からいっしょに遊んでいた後輩と 3軒目に回った店だったので、そいつとの呼吸もばっちり。
 俺、台本作家
 そいつが、ディレクター
 
 “カモ” になってくれたのは、韓流ドラマ大好きという中年の未亡人。
 旦那さんが残してくれた遺産がたっぷりあるのか、好きな韓流スターを追いかけて、韓国ツァーも何度も経験し、夜は自分の気に入ったスナックをはしご。
 でも、やはり何かが足りない。心はさびしい。
 子供たちも大きくなって親元から離れ、(きっと邸宅なんだろうけれど) 、その家に帰ると、暗い部屋に電気をともす役は、いつも自分。
 その奥方と、その日は同じカウンターに並んだ。
 
 「韓流ももう飽きちゃって … 」
 と、奥方が、カウンター越しに、店のママさんとしゃべっている。
 「ぺ・ヨンジュンが良かったけれど、今はイ・ビョンホン。でも、それもだいたい見尽くして … 」
 すかさず、「クォン・サンウとか、どうですか?」
 と、私は話に割って入った。
 
 「あら、男の人でもそういうの観るの?」
 こちらを振り向いた奥方の目がキラリ。
 「ええ、ちょっとテレビに関係した仕事だから … 」
 
 ああああ!
 また出ちまった!
 悪いクセなんだよ、これが …。
 相手を騙しながら、ワル乗りの仲間に巻き込んで騒いでみたいという、まったく無邪気な、それでいてイジメッ子のような邪悪な精神が、一気に全面開花してしまうのだ。
 
 「テレビの仕事って?」
 オバサン、少し興味ありげな顔をこっちに向ける。
 その視線を頬に受けながら、こちらはカウンターに目を落とし、やや恥かしげに、
 「いやぁ、さんまさんの ○ ○ とか、タケシさんの ○ ○ なんかの台本書いてますけど … 」
 … 別に、たいした仕事やっているわけじゃないんですよ、という表情をいかに作るかがカギだ。
  

 … したら、そのオバサン、
 「そういう人たちと仕事で会うわけ?」
 
 お、完全にかかったぞ、これは…。
 
 「最初の打ち合わせの時だけですけどね。でも、さすがあのクラスの人たちは一級品ですね。台本渡しても、パッと流しただけで、ほとんど覚えてしまうんですよ。
 でも、さんまさんなんて、僕が書いた台本を守ってくれたことないの。あの人の場合は、ほとんどがアドリブ。舌の神経がそのまま反射神経と直結している人ですから」
 
 もちろん本物のさんまさんとは、会ったこともない。
 テレビで見た印象をそのまましゃべっただけだ。
 
 へぇ! と、オバサンの顔がにわかに興味を感じた表情になってくる。
 
 「今度、いっしょに番組に出てみます?」
 と、私はすかさずオバサンに尋ねる。
 
 「え? 私が? 何の番組に?」
 「 ○ ○ の番組が下半期からリニューアルされて、新たに、一般の主婦をゲストに招くコーナーができるんですよ」
 「それに私が? ハハハハ」
 
 さすがに、オバサン、そこまでは信用しない。
 ところが、そのやりとりを聞いていた、私の相棒がすかさず乗り出してきた。
 
 「奥さん、すごくフォトジェニックだから、ライティングをうまく当てれば、ものすごく目立ちますよ。
 視聴者に与えるインパクト大だろうな。ひょっとしたら、カリスマ主婦デビューができるかも」
 
 まったく打ち合わせもしないのに、この相棒は、よくその場の流れに乗ってくるよな。

 「ちょっとカメリハしてみましょうか?」
 私はそう言って、相棒に振る。

 「カメリハ?」
 と、オバサン。
 「カメラリハーサル」

 相棒がそれを受け、両手で四角い枠をつくり、カメラのフレームよろしく、オバサンの方に向ける。
 
 「はい、カメラ目線くださ~い。表情は自然に~」
 「いやだぁ」
 と笑いながら、オバサン乗ってくる。
 
 「ちょっと引きま~す。目線そのままで~」
 相棒は、さらにストゥールから腰を浮かし、体を後ろに反らせる。
 その腰つきがいやらしくて、いかにも業界っぽい。
 「オッケーですね。それじゃトークリハーサル」
 と、相棒。
 
 今度は、私が相棒からバトンを受けて、
 「それじゃ、30分後に、ホンモノのさんまさんがスタジオ入りしますから、それまで、私をさんまさんだと思って、答えてくださいね」
  店のママさんは、もうお腹がよじれるくらいの笑いをかみ殺して、なりゆきを見守っている。
 
 「あんた韓流いうても、誰のファンなの?」
 と、私はさんま調。
 「イ・ビョンホンですけど … 」
 「へぇ、あんな昔の吉永小百合と手を握り合っているのが似合いそうな、坊ちゃん風の二枚目のどこがいいんねん?」
 「あら、彼はカジノを牛耳るギャンブラーの役なんかさせると、なかなか凄みがあるんですよ」
 
 そこへ相棒が、手でつくった四角い “フレーム” にオバサンの顔をアップで捉え、
 「ちょっと時間が押してます。マキでいきましょう。マイて、マイて!」
 「え、何それ?」
 とオバサン。
 
 「もう少し、間を詰めて話してくださいね」
 と、私。
 「分かったわ。少し早口でいいのね」
 オバサン、すっかりテレビの中の人。 
 笑いをこらえていた店のママさんも、ついにゲラゲラの解禁状態。

 1ヶ月ぐらい経って、その店に顔を出した。
 「あれからあの人、来るたびに、いつテレビに出られるのかしら、って言い続けていたわよ」
 とママさんがいう。
 
 すっかり忘れていた。
 その場かぎりのスタジオごっこだと割り切っていた私には、ショック。
 … あのオバサンに、悪い冗談を言ってしまったなぁ…
 と罪の意識にさいなまされる。
 ひょっとしたら、私には、女性を騙して宝石売買などで食いつないでいくような、詐欺師の素質があるのかもしれない。
 そういえば、以前も 「ラジオローカル局のDJをやっている」 といって、善良な音楽好き青年を騙したことがあったっけ。
 
 思い出すと、自分のなかに一匹の魔物を飼っているような、自分への疎ましさがつのってくる。
 しかし、「詐欺師」 に変貌するのは、あくまでも大量のアルコールが入ったときだけの話。
 しらふのときは、「善人」 を絵に描いたような人畜無害の男である。
 
 …… と、カウンターに座って飲み始めたときは思うのだが、店を出る頃になると、
 「次は、豪華客船で世界一周を楽しむ主婦のドキュメント、という企画があるけど … てな話はどうだろう」
 なんて考えながら、店のドアを押している。
 
 
似たような話 「本業はDJ」
 
  

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ニセ台本作家 への8件のコメント

  1. 磯部 より:

    アブナイ酒癖ですなー
    誰でも二面性をもっているといいますが、ここまでくると、もう芸術。
    一緒に働いているときから思っていましたが、ハジケテル町田さんと、気むずかしそうな町田さんを思い出しました。
    これ、創作者には欠かせない素質ですな?
    きっと!

  2. 町田 より:

    磯部さん そのとおりなんですよぉ! アブナイ酒癖です。
    血液型人間学とか、そんなの全然信じていないですけど、一応自分はAB型です。
    AB型というのは、慎重・冷静なA型と、自滅型・創造的なB型のゴチャ混ぜらしいんですね。
    どうもシラフのときはA型気質。酔うとB型に変るみたいです。
    A型が強いときは、Bに変る自分が嫌で嫌でしょうがないのだけど、Bになっている自分は、A型の自分を軽蔑しているんですね。
    困った血液型です。
    …あ、血液型なんか信じてないはずなんですけどね。

  3. おじさん より:

    はっはっは 最高です
    私も同様な酒癖があり 昔、ビデオカメラが珍しい時代に友人が突然テレビ局の人間だと言い出し 信号待ちの若い女性にインタビューを始めました。私は持っているビデオカメラを肩に乗せて(撮影はしませんが)撮影するふりをした事があります。酔っていると罪悪感が薄れてしまうのですかね

  4. 町田 より:

    おじさん様 いやぁ、ご同輩! お互いに 「どっきりカメラ」 グループですね。
    まぁ、他人に迷惑をかけない…というか、相手が不快感を感じることなく、バレても、笑ってすむようなウソって、人間社会の“うるおい”になると、私は勝手に解釈しているんですけど、人の感じ方って千差万別ですから、「人をコケにして!」と怒り出す相手もいるはずで、そのへんは難しい判断となりますね。
    私は、小さい頃からイタズラ小僧で、よく親が近所に謝りに回っていました。
    いつまで経っても成長しない、困った性格です。

  5. motor-home より:

    町田さんもそういった一面があったのですね?びっくりです。
    僕も以前、D通さんやADK(そのまま?)と一緒に仕事していた時期もあり、彼らに扮しいわゆる「ギョーカイののり」を良くやってましたよ。その時にはプロアマのゴルフ大会のイベントの運営もやってたので、その時に参加した芸能人ネタ(スイングのマネやしぐさ等々でした。。。)
    たまにははじけないといけませんよね。
    是非、今度はペアを組まさせて下さい!

  6. 町田 より:

    motoro-homeさん わぉー! こちらこそ、喜んでペアを組ませてください。
    私も、バブルの頃にブイブイ鳴らしていたD通さんなどの営業や現場の方々を身近に見てきたので、彼らの“ギョーカイのり”を面白く観察してきました。
    CM制作の現場などを見ることもあったので、…普通の人間とは違うのりだな…と、見ていて興味深かったです。
    よし、絶対ペアを組みましょう!

  7. 赤の’57 より:

    この手のお遊びには、逆にインテリジェンスを感じてしまいます。
    影山民夫もそんな遊びをよくしていたようなことをずいぶん前に読んだような気がします。
    共演は出来ませんが、エキストラをしてみたいものです。

  8. 町田 より:

    赤の’57さん この記事は、いろいろな方から面白がっていただけたようなので、書き手としても満足していましたが、赤の’57さんのコメントだけは、ちょっとエリを正すような厳粛な気分になりました。
    いい加減な気分で書いているようなところもあったので、>「インテリジェンスを感じる」だなんて、本当に畏れ多い気がいたします。
    わぁわぁ…どうしよう…と少し慌てています。
    でも、’57さんのエキストラは、とっても存在感がありそうですね。
    なんか、そのエキストラの姿を見ているだけで、面白いドラマが成立しそうに思えます。

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