ジャズの空間 (ウィンドジャマー)

 
 横浜・中華街に「ウィンドジャマー」というバーがある。
 “帆船” という意味だ。
 その名のとおり、店内が船のキャビンのような造りになっている。
 高級木材をたっぷり使ったインテリアは、よく計算されたライティングの効果もあって、ちょっとした夢空間を形づくっている。

 カクテルも料理も絶品だったので、昔は、横浜に遊びに行ったときは、必ず顔を出した。
 エスカルゴのバター炒めなど、ここでなければ食べられない味だったし、ピザも良かった。
 カクテルでは、真鍮のマグカップに氷が盛られたフローズンダイキリが、(少し甘かったけれど)私は大好きだった。
 4~5年前ぐらいだったか、キッチンが変ったのか、料理の味が好みではなくなったので、それ以降は行っていない。
 だから、今がどんな雰囲気になっているのか、正確には知らない。

 この店のもうひとつの売りは、ジャズのライブだ。
 トリオか、カルテット。
 30分おきぐらいに、契約バンドの生演奏がある。
 
 この演奏が素晴らしい。
 飲食のためのBGMに徹するという、抑制の効いた演奏スタイルを守りながら、それでいて、耳を澄ませて聞くと、高度なプレイを演じている。

 ジャズライブを売りにするバーはけっこう多いけれど、演奏者によっては、
 「ねぇねぇ、聞いて! 俺たちけっこううまいでしょ?」
 と、プレイヤーの個性を強く出そうとするためか、スタンダードを演奏しても、音のエッジが立ちすぎていて、BGMとしてはうるさく感じることがある。

 「ウィンドジャマー」で聞くライブは、決してそのようなことはなかった。
 BGMとして聞き流しても、心地よい。
 耳を澄ませて、演奏に意識を集中させても楽しめる。
 プロのわざを感じた。

 近年、BGMにジャズを使う店が多くなった。
 今風の割烹ダイニングや、天ぷら屋などでも、ジャズのCDを流したりする。
 白と黒を基調としたようなモダンなインテリアの場合は、確かに、静かなジャズが似合ったりする。
 
 私も、そういう環境が嫌いではない。
 でも、「待てよ」と最近思わなくもない。
 なんだか、ジャズが安売りされているような気がして、それはそれで寂しい。
 確かに、ジャズには、クールで、無機質性を帯びた演奏のものが多いので、都会的な環境を演出するにはぴったり。
 しかし、それは、ジャズのホットでエモーショナルな一面と対になって、初めて意味を持つものなのだ。

 コルトレーンの「バラード」を愛する人たちは多い。
 でも、それは、「ラブ・シュープリーム」や「クルセ・ママ」、「アフリカ」といった、彼のハイテンションなテナーの咆哮があってこそ、そのリリカルな静謐が際立つという位置付けになっている。

 ジャズには、魔物のおたけびがある。
 その「荒ぶる神」の一面を知らず、女神の優しさだけを求めていても、それがジャズに触れたことになるのかどうか。
 
 連休中、カミさんと久しぶりに「シェーキーズ」に行って、ピザを食べた。
 騒がしいディキシーランド・ジャズがかかっていた。
 でも、お洒落な和風ダイニングで、クールなジャズを聞き流しているより、けっこう新鮮。
 ふてぶてしいほど陽気なペットやトロンボーンに踊らされ、ついついラム・コークのお替りが増えた。
  
 

カテゴリー: コラム&エッセイ, 音楽   パーマリンク

ジャズの空間 (ウィンドジャマー) への4件のコメント

  1. 磯部 より:

    ウィンドジャマーが登場するとは、イエー、本当に懐かしいです。
    私が最初にジャズに触れた店がこのウィンドジャマーでした。
    ウン十年前、横浜の特集でこの店を取材したのを、町田さん覚えています?
    最近はまるで横浜に足を向けないので、いまだにこの店が健在なのは、なによりです。
    今度、行ってみよー!

  2. 町田 より:

    磯部さん そうですかぁ、磯部さんのジャズの原点がこのお店とは。
    ネットで調べたら、しっかり営業しているみたいですね。
    ウン10年前の取材、ありましたね。懐かしいです。
    その後、徳大寺有恒さんの単行本を出したときも、このお店で、グラビアページの撮影を行いました。
    営業前の昼間2時間かけて、100カット以上撮ったのに、使ったのは1枚だけでしたけど。
    横浜ッ子の磯部さん、今度行かれるようでしたら、その後の様子をお知らせください。

  3. 木挽町 より:

    ウインドジャーマーは健在で嬉しいですね。オリヂナルジョーズは閉店しちゃったし、とっくの前にシルクセンター裏にあった木造家屋時代のホフブラウも無くなったし。麦田町のサンマーめんのお店はまだあるのかなあ。小湊交差点のそばに海員サロンもあったなあ。

    • 町田 より:

      >木挽町さん、ようこそ
      ずいぶん横浜に詳しいですね。素敵です。
      僕なんかは横浜文化には憧れていましたけれど、気に入って通ったのは「ウィンドジャマー」くらいでしたね。
      「オリジナルジョーズ」というのは、ゴールデンカップスにいたエディ藩が作曲した「横浜本キートンクブルース」にその名前が出てきますね。どんな店かも知らないんですが、歌のイメージに触発されて、行ってみたい店の一つでした。
       

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