世界征服は可能か ? (岡田斗司夫・著)

 
 3連休の最終日、電車で往復4時間かかるカミさんの実家に行った。
 道中の退屈ざましに、何か面白そうな本はないかと、電車に乗る前に書店を覗くと、ふと目に付いたタイトル。

 『 「世界征服」 は可能か ? 』( 岡田斗司夫 著/ちくまプリマー新書)

世界征服可能?

 またしても、最近の新書にありがちな、
 「 ……… か ? 」
 という疑問形で終わる安直なタイトル、と思ったが、手に取ると、
 
 「この本を手に取ったあなた !! 損はさせませんよ」
 と、その本自体がささやいているような、不思議なパワーが立ち昇ってくる。
 
 要は、子供向けのドラマやアニメに出てくる 「悪の秘密結社」 が、「世界征服」 を口にするのはなぜなのか ? 
 世界征服というスローガンを掲げて、彼らはどういう世界をつくろうとしているのか ?
 世界征服にかかるコストはいくらなのか ?

 そんなバカバカしいことを、大真面目に論じた本らしい。
 電車に乗る時間が迫ってきたので、私は、即座にこれを買って電車に乗り込んだ。
 
 シートに座って読み始めると、確かに面白い。
 「仮面ライダー」 で主人公に敵対するショッカー。
 「不思議の海のナディア」 に登場する悪の組織、ガーゴイル。
 「勇者ライディーン」 に登場する妖魔帝国。

 さらに、「機動戦士ガンダム」 で地球連邦に戦争を仕掛けるジオン公国。
 「ドラゴンボール」 のピッコロ大魔王。
 さまざまな “悪の帝国” の組織者たちのキャラクターや、彼らの思想を紹介しながら、彼らの 「世界征服」 の方法論を論じている。
 まさに、オタクがオタクのために書いたオタク本で、オタクでない私にも、そのこだわりのキツさが十分に楽しめる。

 特に、ところどころのツッコミが笑わせてくれる。
 「勇者ライディーンに登場する妖魔帝国の目的は、 “人類滅亡” です。しかし、常にそれを邪魔しようとするライディーンを葬ろうという作戦を採用するため、化石獣とか、強烈獣とか、毎週一体ずつ小出しにして戦いを挑んでくるので、本当に人類絶滅はそのペースで間に合うのかと心配になります。
 そんなことをするより、さっさと毒ガスでも撒けよ、とやきもきするのですが、どうも彼らの科学力は片寄っているようで、巨大ロボットはつくれるけれど、毒ガスなどはつくれないらしいんですね」

 こんな感じで、「悪の秘密結社」 をおちょくりながら、愛しているところが、この本の楽しさだ。

 発想の妙を感じた。
 同じ出版界に属する者としては、こういう、誰もが考えそうで、実はまだどこも手を付けなかった分野を開拓する手口を見ると、悔しいような、うらやましいような。

 ただ、着想の面白さは十分に評価できるのだけれど、途中から、少しずつ真面目になっていったところが、ちょっと物足りない。
 後半はけっこうマジに、金正日体制やヒットラーの独裁制を論じたり、アメリカの独立戦争やイギリスの階級社会を論じている。

 それはそれで、考えなければならない大切なテーマかもしれないが、前半に展開した 「無責任な遊び心」 が後退して、なんだか 「フツーの本」 になってしまったような気もする。

 結論は、次のようなもの。
 「悪による世界征服とは何か ? それは人々の幸福と平和を破壊することである。
 人々の幸福感が、その時代の価値観で決まるとすれば、その時代の価値観にダメージを与えることが、悪であり、それを世界に広めようとすることが、すなわち悪による世界征服となる」

 では、現代において、人々に幸福をもたらす 「価値観」 とは何か ?
 筆者は、それを 「自由主義経済」 と 「情報の自由化」 であるという。

 すなわち、貧富の差を肯定したり、誰でもお金持ちになるチャンスがあるという価値観を幸福だと感じる世の中に対し、それは 「違う ! 」 と断固否定するのが、現代における 「悪」 であり、そのような目的をもった団体こそ、「現代の悪の秘密結社だ」 と著者は説く。

 だから、この時代における 「悪の組織」 とは、ボランティアを行うエコロジー団体だったり、ネットではなく、人と人との直接的な交流を広めようとする、ハートウォーミングなグループのことにほかならない。

 だから、
 「いいものをより安く」 ではなく、
 「人を出し抜いて得をするのはやめましょう」
 というのが、悪の標語であり、
 「トレンドに敏感に」 ではなく、
 「お年寄りを大切に」 というのが、悪のスローガンになる。
 
 結びは、こういう言葉で締められている。
 「環境に優しく、良識と教養ある世界を目指すことによって、悪の栄える世界を目指しましょう」

 著者独特のヒネリの効いた、卓抜な結論である。
 笑いにまぶしたマジなメッセージとも取れるし、「いやぁ、ジョーダン、ジョーダン」
 と煙に巻いているようにも取れる。

 途中で、真面目な情勢分析をしているところが、前半部分の語り口とそぐわない感じはあるが、コンセプトメイクの段階で、すでにヒットを約束されている本だという印象を受けた。 
 
  

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