巨大な大砲の映画 『誇りと情熱』

《 昔の映画の現代的鑑賞法 歴史編 9 》
「 誇りと情熱 」

 
 スタンリー・クレイマー監督が1957年に撮った、ナポレオン戦争時代の歴史映画。
 ナポレオンのスペイン侵攻に対抗するスペインのゲリラたちが、フランス軍司令部のあるアヴィラという町まで、苦労して巨大な大砲を運び、城壁を破壊して町を奪回するという話。
 

 
 砲術を指導するイギリス将校 (ケーリー・グラント) と、ゲリラのリーダー (フランク・シナトラ) が、ゲリラ兵たちの女神的な存在である美女 (ソフィア・ローレン) をめぐって、恋のつばぜり合いを展開するというサブ・ストーリーが彩りを添える。
 
 ソフィア・ローレンは十分に魅力的だが、男たちは今ひとつ迫力に欠ける。
 イギリス将校を演じるケーリー・グラントは、なんだか、ただのオッサン的雰囲気だし、ゲリラの首領であるフランク・シナトラは、やはりスポットライトを浴びて、ディナーショーで歌っている姿の方が似合いそうで、野性味に欠ける。 
 また、巨砲のゆくえを追求するフランス軍の対応が甘すぎて、ストーリーに緊迫感が生まれない。
 
 しかし、こういうのんびりした時代のハリウッド映画は、なぜか観ていてほのぼのとする。
 
 面白いのは、民衆が巨砲を引いて、スペインの原野を行進する映像だ。
 
 とにかく大砲がデカい!
 その姿を見るだけで惚れ惚れする。
 一度、その巨砲が火を吹けば、どんな堅固な城壁でも、一発で破壊できそうな迫力は、大砲が沈黙を守っている状態でも、すぐに伝わってくる。
 
 ところが、実戦でこそ世界を転覆させかねない力を秘めた巨砲も、移動時はまぬけな厄介ものでしかない。
 泥道ではスタックして駄々をこねるし、坂道になると制止を無視して転げおちる。
 何百人という人力に、馬や牛のけん引力をプラスしても、1日の移動距離などたかが知れている。
 
 戦争に対する冷静な計算があるならば、まずこんな輸送コストのかかる武器は、職業軍人ならば誰も相手にしない。
 
 しかし、大砲を運ぶ民衆は、まるで 「大めしぐらいのガキ大将」 という感じの愛情を注ぎ、山坂を越え、敵の探索を振り切って、この大砲を運びぬく。
 要するに、この映画の主役は大砲なのだ。
 話の筋は、この大砲を運ぶための苦労話に終始する。
 
 監督は、ゲリラのリーダーの口を借りて、こう言わせる。
 
 「戦いに勝つか負けるかなどはどうでもいい。それよりも、この大砲が存在することが、スペイン人にとって大切なことなのだ。この大砲は、スペインの抗戦のシンボルなのだ」
 
 大砲がシンボルであるかぎり、それを運ぶ行為は、「戦争」 ではなく 「お祭り」 だ。
 カーニバルの行列のごとく引かれていく巨砲の情景は、まさにゴヤの絵画に出てくる “祝祭” の世界だ。
 風車、闘牛、茶褐色の大地、ならず者、フラメンコダンサー、ご都合主義者の聖職者。
 ゴヤの絵画を彷彿とさせる道具立てがふんだんに登場する。
 
 スペイン独特のエキゾチシズムも随所に散りばめた、サービス精神旺盛な展開によって、スペクタクル映画であると同時に、観光映画としても機能している。
 
 

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