現代ホラー作家貴志祐介の魔術

 ホラー作家としての、貴志祐介さんの名声は国際的だ。
 韓国製ホラー映画として大ヒットした 『黒い家』 (シン・テラ監督/ファン・ジョンミン主演) も、その原作は日本人の貴志祐介さんのもの。

 日本でも、過去に映画化されたらしいが、私は映画は観ていない。
 しかし、この原作は確かに傑作だった。
 
 貴志祐介さんの小説は、長いものでも、ほとんど1日~2日で読めてしまう。
 文字量が少ないからではない。
 一度読み始めたら、もう止まらないからだ。

 電車の中で読み始めると、目的駅に着いてからも、ついベンチに座って読んでしまうし、家で読めば、睡眠時間を削ってまで読んでしまう。
 それだけ面白い。
 寡作な作家だが、出ているものは、どれを読んでも満足できる。

 厳密な意味で、ホラーといえるのは 『13人目のペルソナ ISOLA』 ぐらいかもしれない。 『黒い家』 と 『クリムゾンの迷宮』 は奇想天外な話ながら、心霊現象などを扱った話ではない。
 世にも奇怪な話なのだが、合理主義と科学が隅々にまで浸透しているはずの現代社会でも、もしかしたら有りうる話だ、と思わせるところが、この作家の凄さだ。

 私がいちばん怖かったのは 『天使の囀(さえず)り』 。
 

 頭の中で、「天使が囀っているような音」 を聞く人たちの話だ。
 その囀りが聞こえ始めると、どんなうつ状態に陥った人でも多幸感が生まれ、人生をポジティブに生き抜こうと決意するようになる。
 しかし、それも長く続かず、最後は、自分が最も恐れていたものに、逆に魅入られるようにして死んでいく。

 とにかく怖かった。
 心理的な怖さというよりも、もっと人間の原始的な本能をジクジクと痛めつけるような、生理的な怖さである。
 
 解説にも書いてあったが、ホラーなのか、SFなのか、サイコサスペンスなのか、途中まで読者にまったくジャンルを特定させないところが面白い。
 テーマはギリシャ神話や聖書などの世界にまで及び、一転して精神医学の領域に入る。
 さらには遺伝子工学、生物学にまで展開していく。
 
 もちろん話半ばで、ネタが割れるわけだが、そこからがもっと怖い。
 たいていのホラー・サスペンス系小説は、ネタ割れした段階で、作りモノめいた印象が生じてしまうのだが、この小説は、
 「人間の知らないところで、密かに、そういう現実が進行しているかもしれない」
 と、思わせる力を持っている。

 基本的にどの小説も、人間が人間でなくなっていくという設定が多い。
 人間が人間を超えるものとなったら、それは何なのか。
 超能力者か、鬼か、怪物か。
 そういう、言い古されたジャンル分けに入らない何物かになる。
 読者は、今まで見たことも、読んだこともない、新しい生命体に触れる恐怖と感動を味わうはずだ。 
 
 

カテゴリー: 映画&本   パーマリンク

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong> <img localsrc="" alt="">