エスカルゴ号2

  

 昨日の話の続きになるが、いま夢中になって読んでいる 『世界は俺の庭だ』 では、エスカルゴ号がついにメキシコに入った。
 その後に、ヨーロッパを回っていくつかの国境を越えた桐野江氏だったが、世界の国境のなかでも、このアメリカとメキシコを隔てる国境ほど、見事に“国境”といえる凄みを持ったものはなかった、という。

 「金網一枚をさかいに、メキシコ側は、水は天まかせで、大地は白く乾いている。その反対のアメリカ側を見れば、こちらは、どんなことをしても水を引いてくるアメリカらしく、一面の緑」
 地続きであるはずの大地が、フェンス1枚をさかいに、まったく違う相貌を現しているのを、桐野江氏はショックに近い感覚で捉えている。
 どの地域の国境なのか、そこに地名はなかったが、なんともすごいイメージが伝わってくる記述だ。

 メキシコ側に入ると、
 「空気自体が粉っぽくなり、不規則なリズムを持って、縦に揺れている感じがする」
 とも書かれている。
 「町に入ると、酒場はもちろん、市場、道路、レストラン、どこへ行っても生の音楽が流れ、人々の話し声は、小鳥のさえずりとハイエナのけんかが入り混じったような不思議ね音色をとどろかす」
 とも。

 そして、赤い花、朱色の屋根がわら、極彩色のポンチョなど、あらゆる色が一瞬も止まることなく、踊り続けている、という。
 初めて目にした未知の土地に対する興奮もあるのだろうけれど、美しい表現だと思う。
 エスカルゴ号は、このようなエキゾチックな町を次々と抜け、サボテンの連なる大地を抜けながら、南へ。
 知人の日本人のいる町に、少しのんびりと逗留することにした。
 時間ができると、酒場に飲みに行った。
 まさに、西部劇に出てくるバーの雰囲気らしい。

 カウンターで飲んでいると、誰かが必ず寄ってくる。
 「日本人ですか?」
 「イエス」
 「では、一杯注いでいいですか?」
 「ありがとう」
 
 これが、1人や2人では終わらない。
 その酒場に居合わせる客が、行列でも作るように、順番を待って、次々と訪れる。
 うれしいけれど、酒は酒だ。
 酩酊してからも、この歓迎は終わることがない。
 断ると、なぜ、自分の順番になると断るのか? という険悪な雰囲気になりそうなことも。
 暑苦しくなるほどの、過度な親切。
 桐野江氏は、文化の違いというものを、まざまざと認識する。

 旅行記には、いろいろなものがある。
 同じメキシコの旅行記でも、村上春樹氏の書いたものは、そこに住む人々と一歩距離を置いた、クールな旅行者の目を通した鋭い観察録だった。
 
 しかし、桐野江氏は、どんな場所でも、人間と接することの面白さから目を背けることがない。
 この本が、40年以上経った今も輝きを放っているのは、人間の体臭が匂ってくるような描写の力だと思う。
 
 
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エスカルゴ号2 への2件のコメント

  1. TJ より:

    なぜか、エスカルゴ号とサボテンやテキーラが似合うような気がします・・・そして、異文化を肌で感じる感覚
    もキャンピングカーでの旅ならではなんでしょうね!!
     

  2. 町田 より:

    そうですね、異文化なんですよ!
    企業などでは「異文化交流セミナー」などといって、諸外国と日本の文化の違いを公演したりしているところも
    ありますが、このエスカルゴ号の場合は、人間の体臭の匂うようなところで、キャンピングカーを通じて、人と
    触れ合っているところが素敵ですね。
    それにしても、今から40年も前に、日本人の造ったハンドメイドに近いキャンピングカーが、サボテンの連なる
    メキシコの田舎道をトコトコ走っていたなんて、魅了されます。
    「異文化」って、理屈で理解するものではないですよね。TJさんのように、ヨーロッパのクルマ、アメリカの
    クルマなどをたくさんご覧になって、その設計思想の違いなどから感じ取る「異文化」って、さぞやワクワクす
    るものがあるのでしょうね。うらやましいです。

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