吉祥寺ビーバップ(Be Bop)

 
 
 
 もう40年以上も前の話だ。
 東京・吉祥寺の南口に、「Be-Bop(ビーバップ)」という音楽喫茶があった。

 吉祥寺の喫茶文化を語る上では忘れてはならない野口伊織氏が開いた店で、ジャズ喫茶の名門「FUNKY(ファンキー)」の2号店にあたる店だった。
 しかしこちらは、看板に「JAZZ & BLUES」を謳うだけあって、オープン当時は単なるジャズだけでなく、黒人音楽全般を意識した店であったかもしれない。

 だが、結果的に、ここは日本では2番目に早くオープンした “ロック専門店” になった。
 ちなみに、1番目は東京・国分寺に開かれた「ほら貝」という店だという。 
 
 この「ビーバップ」が、二十歳の頃の私の “たまり場” だった。
 地下1階と2階があり、2階はこぎれいなデートスポット用スペース。音も小さく絞って、会話ができるようになっていた。

 反対に地下は、耳をつんざく轟音が渦巻く戦場だった。
 当然、独りでヒマな時間をつぶさねばならない私は、地下の戦場へ。

 地下は、意識の尖ったロック信者が集まる “魔窟” だった。
 ロックの知識と楽器テクニックがないと、地下の方には降りられないという雰囲気が自然にできあがっていて、知らずに入ったお客さんには、ちょっと居づらかったかもしれない。
 
 テーブルも、椅子も、壁も黒一色。わずかに椅子のアクセントとして、赤が入っていたかどうか。
 プレイ中のアルバムジャケットが飾られる棚があったが、そのジャケットすらも、タバコの煙で灰色になった空気のなかに霞んで見えた。
 
 地下では、ウェイターに飲み物を頼むのも一苦労だった。
 「ホット」
 「アイス」
 などという注文を通すだけでも、巨大スピーカーを揺るがす(ツェッペリンの)ロバート・プラントの咆哮に負けないくらい絶叫しないと、伝わらない。
 もちろん、会話をするような人間は1人もいない(したくてもできない)。
 
▼ ロバート・プラント(左)とジミ―・ペイジ

    
 重戦車が地響きを立てるように鳴るウーハー。
 離陸するジェット機のような金属音を奏でるツィーター、コキーター。
 全身の皮膚が震えるような空気の波動を受けて、誰もが目を閉じ、長髪を振り乱して、身体をゆすっていた。
 
 なかには、ギターを持ったつもりになって、アルヴィン・リーのような猛烈な早や弾きを披露しながら、椅子から仰け反る人もいた。
 今でいうエアギターの元祖である。
 クラプトンのクリーム時代の「クロスロード」などがかかると、席のあちらこちらに、エアギターを奏でるクラプトンが何人も登場した。
 
 
 私は、この店でザ・バンド、サンタナ、CSN&Y などを知った。
 当時は、ヤードバーズ、クリーム、ツェッペリンに至る UK ブルースロックが全盛の時代だったので、CSN&Y(クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング)をここで最初に聞いたときはびっくりした。
 「カントリーベースのロックというのもあるんだぁ !」
 という驚きだった。
 
▼ CSN&Y

 彼らが1970年に発表した『デジャ・ブ』は、ほんとうによくこの店でかかった。カントリー系の音でもあり、フォークにも聞こえ、でも、まぎれもなくロックだった。
 最初はなじめなかったが、何度か聞いているうちに、大好きなアルバムになった。「Teach Your Children」などは、カントリー嫌いの自分の好みを変えてくれた曲といってもかまわない。

 このアルバムを知ることによって、逆に彼らの歩んできた歴史でもある「バッファロー・スプリングフィールド」やニール・ヤングの「クレイジーホース」などを聞くようになった。

▼ CSN&Y「Teach Your Children」

 
 
 サンタナにも脳天を貫かれた。
 「ラテンベースのロックもあるんだぁ !」
 とぶったまげた。
 
▼ サンタナ

 
 下の「ネシャブールのできごと」は、サンタナの最高傑作ともいえる『アブラクサス』に収録された曲。ラテンとフリージャズが融合したようなエモーショナルな前半部分と、それとは対照的なメロディアスでリリカルな後半部の対比が実に素晴らしい。

▼ サンタナ 「ネシャブールのできごと」

 
 
 シカゴにもぶっとんだ。
 勇ましいホーンセクションと小気味よいロックのリズムがこんなにエキサイティングなものであることを、シカゴの2枚目のアルバム(シカゴの軌跡 1969年)を聞くまで知ることはなかった。
 
▼ シカゴの軌跡より「イントロダクション」

 
 
 ジャニス・ジョプリンを知ったのもこの店。
 その頃、ジャニスはソロ・シンガーとしてブレイクする直前で、一般的にはビッグブラザーズ&ホールディングカンパニーとコラボした『チープスリル』の女性ボーカルとして頭角を現したばかりだった。
 このアルバムも、一回聞いただけで完全にまいった。即座に自分でもレコードを買いにいった。 

▼ ジャニス・ジョプリン

 
 
▼ アルバム『チープスリル』より「Combination of the Two」

 
 
 
 もう一つ、この店で聞いた思い出のアルバムとして、忘れられないのは、CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル)の4枚目のアルバム『Willie And The Poor Boys(ウィリー&ザ・プアボーイズ)だ。
 すでに私は、彼らのヒット曲「プラウドメアリー」をラジオで聞いていて、その豪快でおおらかなサウンドに魅せられていた。
 『ウィリー& ザ・プアボーイズ』では、その豪快さが一歩後退した代わりに、ほのぼのとしたカントリーソングの味わいがにじみ出てきて、それはそれで気分がリラックスした。

 このアルバムからはヒット曲がいくつか生まれた。
 「コットン・フィールズ」や「ダウン・オン・ザ・コーナー」(↓)などはその代表である。

▼ CCR 「ダウン・オン・ザ・コーナー」

 
  
 1960年代は、それまで試されたこともないようなアイデアを盛り込んだ実験的なロックが次々と登場し、しかもみな商業的にも成功したという稀有な時代であった。
 
 彼らの大半は、後にメジャーと呼ばれる存在になっていったが、それが判明するのは、まだ2~3年先の話だった。
 いわば、私は「ビーバップ」という店で、彼らが無名時代に最初に世に送り出した音源に接していたことになる。
 そういう体験を「幸せな体験」と呼ばずに何といおう。

 余談だが、この「ビーバップ」には、レジにときどき細身の美人が立っていた。
 すらりとしたハーフ系の顔立ちの人で、ミステリアスな雰囲気を漂わせていた。
 店を出るときに、レジに彼女がいると、なんとなくドキドキしたものだった。
  
   
 参考記事 「吉祥寺の昔の音楽喫茶」
 
 

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吉祥寺ビーバップ(Be Bop) への4件のコメント

  1. HORI-Bon! より:

     音楽を聞きにいくことは最近ほとんどありません。過去も数えるほどです。こちらには呑みながら生演奏が聞ける店というのがあまりないのでちょっと残念です。雰囲気のいい店があるといいのにと思います。
     10年ほど前、イーグルスが来日して甲子園に聞きに行きました。「ならず者」が大好きだったので、イントロのピアノがなったとたん、ほろほろと来たのを覚えています。他の曲もかっこよかったです~。いつかホテルカリフォルニアを歌いたいのですが、、キーが高くて高くて・・汗
     リチャード・マークスも行きました。震災前の神戸でのライブでした。「ナウ・アンド・フォーエバー」がはやった頃です。力強い歌声にちょっと疲れました。でもよかったですね~
     よく聞いた(今でもたまに聞きますが)のは、ブルーススプリングスティーンやREOスピードワゴン、エアサプライ。あとは、ルーサーバンドロスやベビーフェイスなんかもよく聞きました。
    いやあ~なんかなつかしいですね。英語がへたなので、弾き語りはなかなかできないのですが、歌ってみたくなってきました~

  2. 町田 より:

    HORI-Bon!さん やはり音楽は相当お好きですね。
    お好きなミュージシャンの固有名詞を聞いただけで、HORI-Bon!さんがギターで演奏される音楽のルーツが分かるような気がします。
    私もイーグルスは、初期の頃から聞いていましたし、ブルース・スプリングスティーンはビジュアル的にも、歌詞から見ても、カッコいいな…と感じていました。ルーサー・バンドロスやベビー・フェイスのようなブラック系アーチストもお好きなんですね。さすが幅が広いですねぇ! 
    次のラリーの時は、また素敵な歌をご披露ください。谷口さんも、今度は「ビートルズを完全にマスターする」と張り切っていられるようです。

  3. HORI-Bon! より:

    町田さん、こんばんは。
    音楽は最近また好きになってきました。小学生の頃から好きなのですが、好きの中身が変化してきたというか・・・。最初に買ったレコードはシャネルズのランナウェイでした。ちょうど小学6年くらいにはやって、クラスメイト4人組みがアカペラでやったりしていたのを思い出します。

    その次はよく覚えていないのですが、中学の頃はクラシックやバロックをなぜがよく聞きました。サウンドレコパルという月刊誌を友だちと回し読みしたりして、オーディオにも興味が出てきた頃でした。重量感あふれるレコードプレーヤーや見るからにいい音がしそうなカートリッジを見ながらいつかは・・と思っていました。
     
    結局、お金がなんとかなる頃にはアナログレコードは衰退しておりました。残念です。でもいつかは、JBLのパラゴン(まだあるのかな?)やラックスマンやマッキントッシュなどなど、憧れのオーディオに夢見ました。学生の頃、なんとかお金がたまって、ナカミチのカーオーディオを積んだりもして、音は楽しみました。録音レベルを調整が必要でしたが、カセットテープに録音して聴くのはある意味テクニックが試されるわけで・・それは楽しかったですね~。今はそんな楽しみもありません。
    久しぶりにオーディオもいいですね~
    ノイズがあってもいいので、味わいのある、ほっとする音がそばにほしいですね。

  4. 町田 より:

    HORI-Bon! さん お返事遅くなりまして、ごめんなさい。
    シャネルズの「ランナウェイ」がお好きだったとは!
    実は、あの歌、私もまた自分の結婚式の披露宴で、花婿ながら、来場者の前で、つけヒゲつけてギター弾きながら歌った歌です。思い出深い歌です。
    昔のステレオは、確かにカセットに録音するとき、自分で録音レベルを調整しなければならなかったものでしたね。
    しかし、適当なところでフェイドアウトさせることなども可能だったので、編集テープを作るのは楽でした。
    アナログレコードもいっぱい持っているので、私もまた、レコードプレイヤーをもう一度買い直したいな…と思っているところです。
    ノイズがあっても味わいのある音。
    レコードの音は、本当にそうですね。

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