アメリカをテーマにした自動車旅行文学

 
 アメリカを自動車で旅行することをテーマにした小説やエッセイが好きだ。
 その手の読み物として筆頭に挙がるのは、なんといっても、ジョン・スタインベックが書いた 『チャーリーとの旅』 だろう。
 この著作は、彼が愛犬と一緒にキャンピングカーでアメリカを回ったときの体験を綴るという、自動車文学の古典としてあまりにも有名な作品だが、この手の自動車文学では、日本人作家も負けてはいない。
 
 片岡義男は、『スターダスト・ハイウェイ』 のなかで、音楽を聞きながら、ひたすらアメリカの荒野を走り続ける孤独なドライバーの姿を、抑制の利いたタッチで巧みに描いている。
 
 主人公が何のために走るのか。
 その説明は一切出てこない。
 
 しかし、読んでいるうちに、そんなことはどうでもよくなるような本だった。
 ドライブインで出会った愛嬌のある女主人。
 モーテル中庭にある人気のないプール。
 クルマを並走させながら、缶ビールを投げてくれた愛想のよいカップル。
 空から降りかかる星くず。
 ドライバーが目にしたアメリカ中西部の風物が、無数の断片となって、切れ切れに描かれていく。
 

 
 東理夫は、『荒野をめざす 追憶のハイウェイ・ルート66』 というエッセイで、ルート66をだどりながら、アメリカを走ったときの見聞録を記している。
 
 こちらの本では、日本人ドライバーから見たアメリカの広大さと単調さが、多少メランコリックに語られていた。
 
 「カリフォルニアを走るインターステートハイウェイ5 には、260㎞の直線道路がある。4時間以上ハンドルを切ることがない。トラックドライバーのなかには、運転しながら双眼鏡で子供たちのやっている野球を 2イニング見たという人間もいる」
 
 そんな記述を読むだけで、アメリカの単調な広さが分かる。
 この本も、主人公のドライブの目的を説明しようとしない。
 
 「ニードモア (もっと必要) という町の名前が面白そうだから、行ってみようと思った」
 
 たまに、そんな理由付けが出てくるだけだ。
 これも美しい文章だった。
 
 私は、昔、これらの本を声を出して読んで、テープに録音し、文と文の間に音楽を挿入して、自作の朗読テープをつくった。
 北部や西部を舞台にしたエッセイの場合は、ニール・ヤングやザ・バンドの曲を入れる。
 アラバマあたりが舞台となったエッセイを吹き込んだ場合は、オールマン・ブラザースやレーナード・スキナード。
 テキサスなら ZZ トップ。
 
 そうやって構成した自作のテープを、独りでドライブしているときに、よく聞いた。
 文章と音楽が一体となったテープを聞いていると、国道16号線を走っていても、少しハイな気分になった。
 
 村上春樹の 『辺境・近境』 にも、自動車を使ったアメリカ横断記が載っている。
 それによると、アメリカでは州によって FM 局が変わり、局が変わると音楽も変わると書かれている。
 しかし、東海岸から内陸部に入っていくにしたがって、ジャズやヒップホップは影をひそめ、いつのまにかカントリーミュージック一色になる。
 アメリカでは、海岸線に面した地域以外の州に入ると、カーラジオのスイッチをONにしているかぎり、朝から晩まで、そして深夜になってもカントリーしかかからないという。
 
 カントリーミュージックは嫌いではないが、昼夜を問わず聞こえる音楽がそれしかないという環境が信じられない。
 実際に、自分がドライブしてそんな目にあったら、すぐにうんざりしてしまうかもしれない。
 しかし、そういう退屈さに、いつも無性に憧れている。
  
 

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アメリカをテーマにした自動車旅行文学 への4件のコメント

  1. モーターホーム より:

    町田さん
    アメリカ自動車の旅に関する本のご紹介有難うございます。早速、読んでみます。
    アバウト・シュミットも見ないといけませんよね。

  2. 町田 より:

    モーターホームさん コメントありがとうございます。
    ここで紹介したアメリカ自動車の旅の本は、現在書店では見かけないものが多いですね。アマゾンでもあるかどうか。
    スタインベックの「チャーリーとの旅」は最近復刻版が出たという情報も聞きました。
    しかし、片岡義男の「スターダスト・ハイウェイ」や東理夫の「荒野をめざす」などは、ネット検索をしても、在庫がないように感じます。
    いい本なんですけどね。
    「アバウト・シュミット」は、面白いですよ。
    ジャック・ニコルソンの演技が抜群ですね。

  3. ブタイチ より:

    はじめまして!
    秋元さんのコンピュータがダウンして…
    それで…
    たまたま町田さんのサイトを発見しました!
    眠くなっての気分転換だったんですが…
    ビックリして…アドレナリンが噴出してきました!
    ここで紹介されている本は自分もほとんど持っています。
    スタインベックの「チャーリーとの旅」だけが…どうしても手に入らなくって…
    暇ができたら国立図書館に行ってこようと思っていたところでした。
    同じような感性を持っている人がいて、それを上手に表現しているってことに…感動しました。
    自分もスタインベックがアメリカ再発見の旅に出た時に何を感じたのか…
    彼の短編集の中で出てくる彼の生まれ故郷のサリナスの谷はどれほど美しいものなのか…
    司馬遼太郎の『アメリカスケッチ』の中でのスタインベックの意外な日本人評を読んだりしているうちに…
    いつかサリナスのスタインベックの家を訪ねてみたいと思ってました。
    今年の夏はサンフランシスコからハーレーでグレーシャ国立公園、イエローストーン、そして、ハーレー乗りの聖地スタージスへ行き、そこで仲間がボストンとアリゾナからそれぞれモーターホームでやってくるので3~4泊させてもらう予定なんですが、サリナスまで足をのばそうかな~。
    町田さんのブログをもう少し読んでモーターホームのことを詳しくなって旅にでようと思います。
    「チャーリーとの旅」というピンポイントでツボのはまるブログを読んで…すっかり勝手に盛り上がってしましました。
    はじめてのコメントなのに…長くなり申し訳ありません。

  4. 町田 より:

    ブタイチさん わぁ、アドレナリンが吹き出したのは、こちらも同じです!
    片岡義男「スターダスト・ハイウェイ」
    東理夫「荒野をめざす」
    村上春樹「辺境・近境」など、ほとんど持っていらっしゃるなんて。今、アマゾンで探しても、なかなか手に入りそうもない本ですものね。
    司馬遼太郎の「アメリカスケッチ」も、少し理屈っぽい本ですが、アメリカ文化を見る視点がユニークで、素敵なレポートでしたね。
    ブタイチさんのブログは、いつも拝見しておりました。ときどきコメントも入れさせてもらいました。
    「同じ感性」などとご指摘いただいてうれしい限りですが、私などから見ると、もっとアメリカの本質を解っていらっしゃって、さらにご自分でハーレーで走っていらっしゃって、もうホントにうらやましい限りでした。
    新しいレポートには、期待しております。
    これからも、いろいろ教えてください。

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