怖い話 キャンプ怪奇小説 「柳」

 
最高に怖かった 『柳』 という話
 
 キャンプをテーマにしたホラー小説で、アルジャーノン・ブラックウッドが書いた 『柳』 はものすごく怖い物語のひとつだ。
 
 ウィーンから黒海に向かって、ダニューブ川をカヌーで下る2人の冒険家を主人公にした話である。
 刻々と変化する川の両岸の情景。
 中州にテントを張って、焚き火を囲む夕食。
 アウトドア好きにはこたえられないシーンがたくさん登場するのだが、どっこい、これが実に恐ろしい方向に向かっていく。
 
 前半は、ダニューブ川を美しく描き出す、のどかな筆致で進行する。
 都会の喧騒を離れ、雄大な自然のなかで遊ぶことに思いを馳せる2人のアウトドアマンのうきうきした気分が、カヌーの軽快な動きと重なって、小気味よいテンポで描かれていく。
 
 2人の漕ぐカヌーは、田園風景の広がる平野を越えて、次第に荒涼とした景色のなかに分け入っていく。
 陽が陰りはじめ、彼らは、そろそろ最初の宿泊地を探さねばならなくなる。
 風が吹き、川の水かさが増す。
 やがて、鬱蒼とした水柳に囲まれた中州を発見し、2人はそこにテントを張ることを決める。
 周囲に生える水柳が、なんともいえず美しい。
 だが、その美しさには、食虫植物がワナを仕掛けているような邪悪な匂いが立ち込めている。
 

  
 2人は、お互いにその情景に不吉なものを感じるのだが、しかし同僚の気持ちを斟酌しあって、あえて口に出さない。
 大自然を相手にしているときは、不用意にパニックをあおって、お互いの精神を不安定にさせてしまうことは、危険な結果を招くことになるからだ。
 
「あの世」 が迫り出してくる場所
 
 焚き火に使うための木切れを集めに出た主人公は、ふと木片を拾う手を休め、周囲の風景を見回す。
 
 …… 何かが、こちらを見つめている!
 
 それが気のせいであることは判るのだが、胸のざわめきを押さえることができなくなる。
 耳を澄ますと、風にまぎれて、銅鑼 (ドラ) の音のような響きが虚空に舞っている。
 大勢の人間が泣いているような、魂の底まで凍りつきそうな、寂しい物音だ。
 主人公は、それが地球上では生まれ得ないような物音であることに気づく。 
 
 …… この中州は、本来は人が立ち入ってはいけない場所ではなかろうか? ここは、この世ならぬ、別の世界と接している場所かもしれない。
 主人公はそう感じるのだが、 「別の世界」 が何であるかを、小説は最後になっても説明しない。
 
 ブラックウッドが、舞台に中州を選んだことは、この小説を理解する上での大きなポイントになる。
 以前、日本の玄倉川の中州でキャンプしていた数家族が、突然の増水で亡くなるという、いたましい事件があった。
 それからも分かるように、中州は 「異界」 が突出しやすい場所なのだ。
 荒ぶる神としての自然が、その無慈悲な相貌を剥き出しにする 「神域」 ともいえる。
 
 2人の冒険家は、拾い集めた薪で火を熾し、いつものように、無駄口を叩きながら調理を始める。
 しかし、食事を終えてくつろぐ2人に、心の平安は訪れない。
 話題がだんだん乏しくなり、焚き火のまわりに、重たい沈黙が広がっていく。
 いつも食後にパイプをくゆらす友人が、今日はその習慣を忘れている。
 友人も、きっとこの異様な気配に気づいている!
 主人公は、そのとき、不吉な予兆に怯えているのは、自分だけではないことを悟り、慄然とする。
 
 ついに、同僚が重い口を開く。
 「知ってるか? カヌーの底にクラックが入っているんだ。それが人間が裂いたものとは思えない傷の形なんだ。簡単には修理できないほどひどい」

 「きっと引き上げるとき、岩で擦ったんだろう」
 作り笑顔を浮かべて、そう答える主人公も、自分の言っていることを信じているわけではない。
 
 「いや、あれは事故でできた傷ではない」
 いつもは陽気な友人が、この日は人が変わったみたいに陰鬱な声を出す。 

 「それじゃ、まるで何ものかが、ここから出るな、と言っているみたいだな」
 冗談でその場をしのいだ主人公も、自分の笑いがこわばってしまうことを防ぐことができない。
 
 深夜、寝苦しくなって、テントの外に立った主人公が見たものは!
 …… この先は、もう書けない。
 未読の読者にネタをばらしてはいけないという配慮よりも、自分で思い出しても怖くなるからだ。
 
 最初に読んだとき、私はベッドに寝そべって読んでいたのだが、読み終わったとたんに後悔した。
 眠れなくなってしまったのだ。
 布団をかぶっても、思い出すと震えが止まらなくなる。
 
 私は、もう一度跳ね起きて、そのアンソロジーに収録されていた狼男の話や、墓地で死体を食べる男の話などを読んだ。
 ブラックウッドの話に比べ、それらの物語は、はるかに稚拙でバカバカしく思えた。
 私は、吸血鬼の話を読みながら、ようやく安心して眠ることができた。
 
キャンピングカーの旅でも怖い場所はある
 
 後年、キャンピングカーで旅をするようになって、私はよく川原や湖畔にクルマを止めて寝た。
 すると、10ヵ所のうち1ヵ所ぐらいは、この 『柳』 に出てくるような、この世に 「あの世」 が迫り出してくるような場所があることを知った。
 「あの世」 とは、人間の霊とか、呪いが封じ込まれた世界のことではなく、自然そのものが、人間の文明を拒否しているような場所だ。
 私の嗅覚がそれをとらえると、どんなに疲れていても、たとえ深夜であろうとも、私はそこから逃げ出す習慣がついてしまった。このことは、以前このブログでも一度書いたことがある
 私が、人のいるキャンプ場やサービスエリアなどに泊まりたがるのも、ひとつには、そういう体験があるからだ。
 
 
怖い話 「PA での怪異現象」
 
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怖い話 キャンプ怪奇小説 「柳」 への14件のコメント

  1. 磯部 より:

    いま、怖いです。夜中に一人でこれ読んでしまって後悔しています。やはり、この世の随所に歪んだ空間ってあるのかな? うー、おやすみなさい!

  2. ジャバママ より:

    昔、箱根のコテージに4家族で行った時、どうしても嫌な部屋だったのにくじで当たって・・・・。
    もともと、その気はあるのですが、夜中に・・・。
    私の口からベラベラとお経のような野太い言葉が。。。
    意識はあるのに、止まらずさすがの主人も飛び起きて、私は汗びっしょり。。。。主人も怖がる。
    という経験がありました。。。(むちゃむちゃ怖かった。。。。)
     
    学生のときも遠征や試合でいろんなホテル泊まった時も・・・・。
    幼稚園の時ひいおばあちゃんが亡くなった時、母に夜中におばあちゃんが来たって言ったり。
    この世には説明出来ない何か・・があるかもしれませんね(笑)

  3. 町田 より:

    この「柳」という小説は、相当昔に読んだもので、記憶を頼りに書いたものですが、もしかしたら、今読むとそれほど怖い話ではないかもしれませんね。今のホラーの方がもっと進化していますから。
    ただ、アウトドアで、さびしいところに泊まらなければならないときは、いつも、この話を思い出してしまうんですよ。
    でも、案外それが、心の刺激になっているかもしれません。

  4. 町田 より:

    いやぁ、ジャバママさんの箱根のコテージの話は怖かった! ゾクっとしました。
    >「この世には説明できない何かがある…」
    そうですよね、そんな感じがします。
    でも、この世の中には(特に自然に関しては)人間の理屈などが通じない世界というものがあった方がいいように感じます。その方が、なんか心が豊かになるような気がしています。

  5. 軽コロ より:

    私は見えることはありませんが、感じることはあります。でも最近はあまりありません。若い頃は声も聞こえることがありましたが。。。
    昨日の話と似ていますが、「心霊写真」と検索しただけで恐いほど出ますね。
    一度、それ系のサイトを閲覧していて危険度が高いとされる写真を開いた瞬間、どこに何が写っているのか見つけ出さないうちに、突然目の前に刃物を突きつけられたような恐怖を覚え、あわててPCを閉じたことがあります。(自分でも何が恐くなったのかわからない)
    何にしても、興味半分で近寄らないことですね(反省)
    トレーラーでの心霊体験はありませんが自転車で旅してた頃は、よくありました。
    長くなるので割愛します。(あんまり思い出したくないし)

  6. 町田 より:

    軽コロさん こんばんわ。>「心霊写真の検索で怖い思い…」。
    もうそれを読んだだけで、怖くなってしまいました。ご忠告に従って、絶対見ないようにします。
    こういう話は、いやだ、いやだと言いながら、みんな結構好きなんですよね。修学旅行の夜も、一番盛り上がったのは、この手の話でしたから。
     
    自分は、理性では幽霊話のたぐいは、基本的に人間の脳内の作用によるものだと思っています。
    心が不安定になってくると、「幽霊見たり枯れ尾花」になってしまうのだろうと…。
    でも、なんでも「理性」で片づけてしまうと、面白くなくなりますよね。
    やっぱり、「この世には科学で説明できない何かがある」と思っていたほうが楽しいような気がします。

  7. 意地悪ジャバママ より:

    そんな事ばかり思っていると、PCの電気を通ってあちらから来られるそうですよ・・・。
    今晩あたり。。。町田さんの寝室へ来て布団の下から・・・。。。
    なぁぁぁんちって!!うそうそっっ!!(^^)
    キャンピングカーでお一人の時に・・・・・。

  8. 町田 より:

    ホントに「意地悪ジャバママ」さんですね。
    今、ちょうどPCの電源を落として、会社を出ようとしていたところですが、3階から1階までの暗い階段を下りるのが嫌になってしまいました。
    >「キャンピングカーで、お一人の時…」も、なんだか、嫌だなぁ。
    そういう機会がちょくちょくあるもので。

  9. ジャバママ より:

    意地悪ジャバママ いけませんねぇぇぇ!!
    よく言ってしっかり叱っておきまっす!!
    (ごめんなさい・・・。)

  10. 町田 より:

    しっかり叱ってね。

  11. ふうてんのトラエモン より:

    ご無沙汰です。
    町田さんの話は読んでるだけで、ゾッとしてくる。
    以前友人と、真夏の箱根へ旅した時、ソイツだけやたら 怖がってましたね。同じ部屋で寝ていたのに、恐ろしい形相の男が鴨居の所からジッと覗いていて目が合ったとか、公衆トイレでひゃっとした空気を感じ、人の気配がしたとか・・・
    私は感じたことはないのですが、そういうことは 絶対にあるのだと思ってます。単純すぎるかな。
    それと、箱根はいっぱい いるらしいですよぉ。
    町田さん、次に行くときも、気をつけてくださいね。イヒヒヒ

  12. 町田 より:

    ふうてんのトラエモンさん 深夜のお越しありがとうございます。
    そういうの、見る人は見るっていいますね。
    あんまりしょっちゅう見ていると、慣れちゃう人もいるそうです。
    聞いた話ですけど、友だちの友だちが、その家に遊びに行ったとき、誰もいない廊下に向かって、
    「また、通ったわ」って、友だちが言うんですって。
    「誰のこと?」って、尋ねると、
    「エプロンしたオバさん」だって。
     
    最初は腰を抜かすほどびっくりしたらしいけれど、そのうち慣れたんだとか。
    ホントかしら。
    きっと、私だったら絶対慣れないと思うけど、お化けを気にしない人もいるんですね。

  13. 上山幸一 より:

    もう一度読みたいのですが、何処で本を手に入れることができるでしょうか?

    • 町田 より:

      >上山幸一さん、ようこそ
      上山さんにメールを拝読し、私もネットで調べてみました。ペーパーではアマゾンで1冊ほどリストアップされていました。『ブラックウッド怪談集』(講談社文庫)です。
      それ以外では、Kindle版の『柳』があるようです。
      こちらは、2016年の4月30日発行(判型:BOOKS桜鈴堂/SINGLE006)。
      40年ぶりの新訳だそうです。
       

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