心のアメリカ旅行 (映画バニシングポイント)

 いつかは、レンタルモーターホームなどを借りて、アメリカの中西部を旅してみたい。
 そう思っている。
 西海岸には2度行ったことがあるが、いずれも都市を見ただけ。
 何もない荒野の風景を知らない。

 いま旅してみたいのは、その何もない荒野だ。
 おそらく、そう思う気持ちの底には、片岡義男のナレーションが入った「ロンサムカーボーイ」のCM画像が潜んでいるのだろう。
 
 あるいは、『バニシング・ポイント』 などという映画に触発されているのかもしれない。
 警察官たちの制止を振り切って、暴走を重ねていく中年陸送屋の話で、当時 『イージーライダー』 と並んで、反体制ロードムービーの2大傑作とまで言われた映画だった。
 しかし、『イージーライダー』 という存在がなければ、ほとんど話題にものぼらなかったと思う。大掛かりなセットを組むこともなく、地味な役者を使って、低コストで仕上げたB級映画の典型だったからだ。

バニシングポイントのGS
▲「バニシング・ポイント」

 しかし、映像は印象的だった。
 画面には、常に 「ロンサムカーボーイ」 のCMのような景色が広がっていた。

 果てしない荒野を貫く一直線の道。
 ゴーストタウンのように寂れた田舎町。
 サボテンの連なる荒野。

 東から出て西に沈む太陽以外には、視界の中を移動するものは何ひとつないんだろうな…と思わせる、退屈なアメリカ内陸部の風景が、次々と映しだされていた。
 豊かなはずのアメリカが、その中心部に、こんなにも空っぽの世界を抱え込んでいるというのは、なんとも不思議な感じがした。

 そういう風景を切り裂くように、主人公の白いダッジ・チャレンジャーが、パトカーを振り切りながら疾走していく。
 チャレンジャーの野太い排気音に、パトカーのサイレンが絡まり、その映像にアップテンポのロックやR&Bが重なる。
 
 そう語ると、なにやら騒がしそうな作品に思えるが、実際はクルマの排気音が遠ざかった後の静寂が、身にしみるような映画だった。
 クルマの影が消えた道路には、いつもライ・クーダー風のけだるいギターが、草原を渡る風のように鳴っていた。
  
 アメリカの内陸部に広がる空っぽの風景を眺め、風の音だけを聞いて立ち尽くすとき、自分はいったい何を考えるのだろう。
 
 想像を絶する大地の広さに触れて、自分の卑小さを悟ることになるのだろうか。
 地平線のかなたに消える一本の道を見て、その先に、この地上では見られない別の世界が広がることを夢想するのだろうか。
 息子が社会人として、一人立ちできるようになったら、一緒に旅しようと思っている。
 
  
 参考記事 「あの車に逢いたい」

 

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心のアメリカ旅行 (映画バニシングポイント) への4件のコメント

  1. 磯部 より:

    映画「イージーライダー」は、当時、思春期の僕にとっても衝撃的だったのを覚えています。生まれもってへそ曲がりの僕は、この映画のラストシーンを観て、やはりお偉い人々にはかなわないと自覚した一本でした。当時の僕より上の世代も、安保世代。ひょとしたら世の中は変わるじゃないか、と考えいたのかも。でも、体制に変化なし。僕は、ガキながらにそのことを痛感した次第です。町田さんとは違う捉え方なのか分かりませんが、僕にとっては、自由の国アメリカの現実を突きつけられた、と記憶しています。
    嫌な気分にさせてゴメンナサイ!

  2. TJ より:

    アメリカの都市部を抜け地方の町から少しだけ、ほんの少し離れると何もない場所に道が広がります。場所にもよりますが、そこからは普段アメ車をバカにした発言をする人も何も言えなくなるほどアメ車の装備の有りかたが納得できます!! V8エンジンの必要性もです。そして国の広大さとこんな場所があるんだと。。
    モーターホームで旅をする場合は許可のある場所以外でのステイは危険と違法になる事があるので注意が必要です。
    アメリカも西や東の大都市、各州の都市圏ではなく地方の市や町のBARなどに行くと時間が止まっているかのような錯覚をおこします。ここ20年くらいの間に変ったのはビールの銘柄と昔、子供だった奴らが酒を飲める歳になっただけで酒を飲むスタイルんどは昔のままです。そんな時間を過ごすのは楽しいです^^

  3. 町田 より:

    >「嫌な気分に…」
    なんて全然! 磯部さん気にしないでください。
    『イージーライダー』という映画を、今見直してみると、かなり印象が異なりますね。
    昔は、ロードムービー的なシンプルさを持った映画という印象でしたが、今見ると、実に観念的な映画だったということが分かります。
    焚き火にあたりながら、「髪を伸ばすことは“体制”か“反体制”かなどと延々と議論していたり…。とても理屈っぽい映画であったことが分かって、あらためてびっくりしたことがありました。
    それを、当時そう意識しなかったのは、あの理屈っぽさが、あの時代は日常的な空気として流れていたということだったのかも知れません。
    『イージーライダー』のラストシーンは衝撃的でしたが、しかし、今思うと、あれがアメリカ南部の一般的な反応かというと、また少し違うのかもしれません。
    松尾理也さんの『ルート66をゆく』という本を読んでみると、アメリカの「政治的な保守」といっても、様々な潮流があって、様々な意見に分かれているとか。
    多民族国家だけに、個々人の考えていることは、ものすごく多様性を秘めているようです。
    『イージーライダー』は、そのアメリカの一面にしかスポットを当ててない映画だったのかもしれませんね。

  4. 町田 より:

    TJさん、うれしいコメントです。
    >「普段アメ車をバカにした人が何も言えなくなるほどアメ車の装備のありがたさが納得できる。V8エンジンの必要性も…」
    そういう表現って、実際にアメリカを走っている方だから言える、リアルな響きがあります。
    そういう“リアルさ”に触れるというのは、文章を読むことを趣味としている人間にとって、何ものにも代えがたい喜びです。
    >「時間が止まっているような、地方の町のBAR…」
    ああ、行ってみたい!
    モーターホームでステイするときのアドバイスも、ありがとうございました。

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